高校時代、美術部の友人とよくスケッチに歩いた。
S君と、大阪の町をスケッチしながら歩いていて、先輩である歯科医のNさんを訪ねたことがある。
Nさんは、しばしば美術部にやってきた。そして、私たちを、学校の近くの「餃子園」という店に連れて行って、餃子をおごってくた。うれしい先輩であった。
さて、立派な歯科医院で治療中のNさんは、入って行った私たちを見て、ムッとしたようであった。大阪目抜きのビルの「高級歯科医院」に、絵の具でべたべたに汚れた服で、のこのこ入っていったのだから、ムッとされてもしかたがない。
Sくんと私は、何を考えていたのであろうか。餃子を食べさせてもらうつもりだったのか。たぶん、何も考えてなかったな。
二人で、大阪港に行ったことがある。川べりで描いていたら、Sくんが私のスケッチブックをのぞき込んで言った。
「キミも、構図のとり方、わかってきたな」
カッチーン!先生でもないのになんじゃ、と思う人もいるだろうが、私は喜んだ。40年以上たっても覚えているのだから、ほめられるのは、おそろしいもんだ。私が、いかにイジもハリもない人間かということがよくわかる。
「いろえんぴつ画講座」に参加して、Sくんが、参加者ひとりひとり、いいところを見つけてほめているのをみて、大阪港でのことを思い出した。高校のころから、ほめ上手、ほめて育てるという資質に恵まれていたようだ。
二時間の講座であったが、Sくんの話術にみがきがかかったと思った。
「赤、青、黄」、これが三原色ですが、「白、黒、茶」、これを犬の三原色といいます、犬にはこれしかないでしょ。
授業のはじめに、こんな話で煙に巻いて、参加者を自分のペースに引っ張り込む。立て板に水、説得力十分だ。
何かに似てるなと思った。
テレビショッピングか、高齢者向けすれすれ販売のセールストーク。
「さあ、この、スエーデン、カレリア地方特産のマガモの最高級ダウンのみ使用の羽毛布団、通常80万円のところ、今回に限り、血行をよくし神経痛にいいといわれる高純度ゲルマニウムネックレスと、水牛製開運吉祥印鑑をプラスして、なんと129000円!」
この道でも、S君は大成功すると思う。
何の話か。絵の話ですね。
果物の描き方を習った。
私は、見違えるように上手になった。
ホントですよ。