安倍首相には、与謝野官房長官が、直接報告することになった。
与謝野氏が病室のドアをノックした。
「コンコン」
「入ってます」
「わかってます。首相、官房長官です」
「え!かんちょう!腹を通してるのになぜ。テロ対策特措法は通せなかったのに、腹を通してしまった」
「調子よさそうですね。退院しますか」
「もうちょっといさせて」
「先ほど総裁選の投票が終わりました」
「どうなりました」
「実は、福田、麻生のほかに一票だけ、『バカ』と書かれた投票用紙が。まさかあれは・・・」
「い、いや、私じゃない!」
「なんと書いたんです!」
「私は、『バ』・・」
「なに!『バ』」
「『場合によっては福田、場合によっては麻生』と」
「だめだ、こりゃ。じゃ、失礼します」
「ちょっとちょっと、何か用事が」
「そうでした。総裁選の結果、麻生氏が落選しました」
「あ、そうたろう」
「えーかげんにしなさい!」
「ほんとにねっ」
与謝野長官が帰った後、昭恵夫人がやってきた。
「あなた、お加減は」
「だいぶいいよ。官邸では、政治家も記者も、皆が敵みたいで、悪口を言われたり、監視されてるような気がしたけど、ここは誰もいなくて落ち着いていられるよ」
「♪だあれもいないと思っていても、いつでもどこかでエンゼルが」
「♪ちゃんとちゃんとちゃんとちゃんと、ちゃちゃ〜んと・・」
「調子いいみたいね。退院する?」
「もうちょっといさせて」
「おだいじに」
夫人が帰った後、主治医の案内でお母さんが病室を訪れた。
「晋三!なんです、このていたらくは!お爺様やお父さまに・・」
「大奥さま、主治医としてお願い申し上げます」
「お黙り!晋三が悪いのです」
「いや、大奥様、心臓ではなく、胃腸が悪いのです」
「えーかげんにしなさい!」
「ほんとにね!」
「お母さま、ボクの心臓は、悪いというより、弱いんです」
「そうだね。所信表明演説も、二行も読み飛ばして。あれでは、気が小さいと言ってるみたいなもんですよ」
「これがホントの、小心表明演説です」
「お前、調子よさそうだね。退院するかい」
「大奥さま。主治医としては、許可できません。機能性胃腸障害は完治していないのです」
「でも先生、今日はすっかりいいんです。これがホントの、昨日性胃腸障害ですね」
「えーかげんにしなさい!」
「ほんとにねっ!」
「首相、退院!」