スタートから、ワンジルが激走、堂々たる五輪新記録で、男子マラソン初の金メダルを日本にもたらした。
ワンジル選手は、国籍はケニアとはいえ、高校時代から日本で走っているのだから、日本人といってもいい。
日本語も流暢だし、顔もちょっと黒いぐらいで、日本人と見分けがつかない。
日本人です。
まったく危なげないレースだったが、35キロ過ぎだったか、給水ポイントで水を取れなかったときは、ちょっと心配した。
ワンジルは、2位で走っていたエチオピアの選手が水を飲んでいるのを見て、手を差し出して、「ワシにも飲ませてくれ」とおねだりした。
これまで、飲んだ選手が、取りそこなった選手にボトルを渡してやる美しい場面は何度も見たが、取りそこなったほうがくれというのは初めて見た。
しばらくそのまま走っていたので、どうするかなと思った。
ワンジルは、何度も催促した。
私なら、渡さず捨ててますね。
アカンベーのひとつもするか知れない。
エチオピアの選手は、ちょっと迷っているように見えた。
下種の勘繰りかもしれないがそう見えた。
結局、渡しました。
もらった水をグイッと飲むと、なんと、突如ワンジルがスパート。
もっと飲みたかったらしいエチオピアの選手はがっくりきたのか、ずるずる遅れたあげく、ゴール間際で抜かれて4位になってしまった。
もっと飲みたかった水を我慢して分けてやったのだとしたら、あそこでスパートされたらがっくりきますよ。
水が原因でないことを祈る。
レース後のインタビューにも、上手な日本語で答えていた。
「ワンジルさん、日本で学んだことはなんですか」
「がまんすることです。がまん、がまん!」
「水はがまんしませんでしたね」
「ほっといてちょーだい!」
「しかし、マラソン経験も浅く、並み居る強豪、北京の大気汚染など、不安材料が多かったと思いますが」
「はい、色々心配もしましたが、走ってみたら、この結果です。これがホントの、ワンジルより産むがやすし!」
「えーかげんにしなさい!」
「ほんとにねっ!」