デパートにベルトを買いに行った。
ベルトには二種類ある。
ベルト本体に穴が開いていて、バックルの針を穴に入れて止めるものと、本体に穴はなくて、バックルのストッパーで止めるものである。
こういうことを私は知ってます。
知ってるばかりか、両方のタイプを持ってます。
長年、両タイプを使ってきました。
それなのに、ベルト売り場の店員のセールストークによって、私は混乱させられてしまった。
売り場で、穴の開いた方のベルトを手にとって見ていたら、女性店員がやってきた。
いかにもベテランという感じの中年女性である。
「ベルトをお探しでございますか」
彼女は、にっこり笑って、穴あきじゃないタイプのベルトを取り上げた。
「こちらは、その穴あきと違って、微調整が可能で、どこでも止められるようになっております」
彼女があまりに真剣に力をこめて、お客様は御存じないでしょうが、という感じで言ったので、私は、そのベルトが、画期的新製品、実用新案出願中のスグレモノ!と思い込んでしまった。
「へー!それは便利ですねえ!」
彼女は、ギクッとしたようで、後ずさりした。
「微調整可能というのはいいなあ」
私は、ほれぼれと、彼女が持っているベルトを見つめた。
「・・・お客様・・・ウエストサイズの変化は?」
「いや、ウエストはほとんど変わりません」
「それでしたら、穴あきタイプで充分かと」
持っていたのをあわててケースに戻して、穴あきタイプをすすめた。
「いや、微調整可能というのが・・・」
未練がましく、ケースに戻されたベルトを見ていた。
見ているうちに、私は自分の勘違いに気づいた。
実用新案出願中のスグレモノではなく、むかーしからある、あたりまえのふつうのベルトではないか。
はやまった!
あんなに感心するんじゃなかった。
「う〜ん、そうですね、やっぱり穴あきにしようかな」
私は、先ほどのことはなかったことにして下さい的微笑を浮かべて、ベルトを店員に渡した。
店員は、は?先ほど、なにかございました?的微笑を浮かべて、深々とお辞儀をした。
無事、ベルトを買うことができました。