朝の電車。
私の定位置、ドアにもたれて本を読む。
このところ毎朝私の前に立つ若い女性はおしゃれな人だ。
最近特に気合が入ってると思う。
秋は、おしゃれな女性にとっては思う存分実力を発揮できる季節である。
彼女の化粧のポリシーは、「恐い顔にみせる」ということのように思う。
「きつい顔」といったほうがいいのか。
やさしく見せようという気はないようだ。
髪は長くて栗色である。
今朝は、長い髪を後頭頭頂部でいったんおだんごにまとめ、それが複雑な過程を経て左右二つに分かれて胸のあたりで波打っていた。
濃い茶色のブラウスで秋の気配を感じさせ、黒いスカートはどうなってるのかわからんようなひだひだである。
ウエスタン調のブーツは、革紐がたくさん垂れ下がっている。
なんといっても今日のファッションのポイントはベルトだ。
15センチくらいの幅広のベージュ色の革のベルトで、濃い茶色のブラウスと黒のスカートとの組み合わせが鮮やかである。
それだけでも目立つのであるが、バックルがすごい。
「インカ帝国黄金秘宝展」から持ってきたみたいな巨大円盤である。
バックルの位置が若干低いように思えるが、これはバックルの重量によるもので、本来彼女が意図する位置はもう少し上なのだろうと思う。
お嬢さん、きまってますね、と思ってジロジロ見ていたら、珍しくバッグから紙を取り出して熱心に読み始めた。
なんですかそれは。
例によって無理して首をのばしてのぞきこむ。
人体改造が可能になったら、ろくろ首を希望しよう。
これ以上のイケメンは望まない。
いくらなんでもぜいたくだ。
バチがあたる。
ろくろ首がいい。
こういう場合に、スイッチを押すと、首がするするっとのびて、簡単にのぞきこめるようになったら私の人生の苦労は半減する。
それまでの辛抱だ。
苦しさに耐えつつ不自然な形で首をのばしてのぞきこんだ。
「年中組パラバルーン練習時間割」
う〜〜ん、私はこの人を誤解していたということになるのだろうか。
そんなことはないと思うが、なんか、「誤解してました。すみません」とあやまらなければならないような気がしないでもない。
悩める私を乗せて、「難波行き準急」はひた走るのであった。