結婚式で残念だったのは、娘のウエディングドレス姿をほとんど見られなかったことだ。
娘の晴れ姿を見たいのは山々であったが、見たら、雷火事地震疫病など天変地異が起こりそうな気がして、国家安泰のためできるだけ見ないようにしていたのである。
がまんした甲斐あって、結婚式は無事終わった。
披露宴でも心配なことがあった。
娘の高校時代の友人Sさんのバイオリンと、娘のピアノの合奏である。
高校時代、我が家でよく二人の合奏を聞いたものだ。
茶目っ気のあるSさんのことだから、ひょっとすると高校の制服姿で演奏するのじゃないか。
そんなことになったら、私はたぶん泣いていたと思うが、いまや三人の男の子の母であるSさんは、制服など着たりせず、素敵なドレスだったので、泣かずにすんだ。
もう一つ心配だったのは、DVD「思い出のアルバム」上映だったが、当日我が家を出発する直前まで、連日連夜、見飽きるほど見まくった成果は恐るべきもので、上映が始まったとたん、私は係りの人に、「他のないの?」と言ってしまった。
最後に心配だったのは、「新婦の感謝の言葉」であった。
これは、たいがいの花嫁さんが泣きます。
それにつられて、かなりの出席者も泣いてしまうという、やっかいな場面だ。
我が家では、私と長女が「クール」で、家内と次女が「ホット」、息子は「ノーテンキ」であるといえる。
次女は「感謝の言葉」で泣くにちがいない。
最初から泣きじゃくるのではないか。
つられて私も泣きじゃくる恐れがある。
娘を見ないのが一番の予防策だ。
サア来い!と、天井を見上げていた。
次女の声が聞こえてきた。
はっきりしゃべってる。
さあ、もうそろそろ泣き出すぞ、と思うが、泣いていないようだ。
おかしいな、と横目で娘の方をチラッと見たら、紙も持たずにしゃべってる。
いい度胸である。
「パパ!おかあさん!・・・」
よっしゃ!
このあたりから、しくしくしだしますよ、と待てど暮らせどしくしくしない。
しないどころか、何だか「選手宣誓」みたいな感じで、正々堂々と感謝しているではないか。
ついこの間まで、なにかあると、家内や私にしがみついてしゃくりあげて泣いてたのに、どうなっているのであろうかと首をひねっているうちに、正々堂々と感謝しきってしまった。
ず〜〜っと天井を見上げてて損した。