きのうの漫才教室じゃなかった料理教室でいっしょだったAさんは楽しい人だ。
よくしゃべる。
ふつう、おじさんはむっつりしてますよ。
余計な口をきいたら損と言わんばかりに、苦虫を噛み潰したような顔をした人が多い。
私みたいに。
自営業の人はよくしゃべるように思う。
おとなしくしてたら月給が入ってくるわけではないからだろう。
振込みを待ってるのじゃなくて、カネを取りにいかなければならない。
このちがいではなかろうか。
去年まで会社を経営してたと言うAさんは、料理教室の先生を、先生と思ってないようだ。
社員みたいに思ってる。
きのうも何度か先生に言ってた。
「ウチの社員やったらクビやで」
レシピには、四人前の数量を書いてあるのだが、奥さんと二人暮らしのAさんは、二人前に書き直さなければならない。
それを先生にさせる。
病気の奥さんの負担を考えて、料理を習って毎日自分で作っているのだから、やさしい人だ。
きのう、私は作った料理を教室で食べた。
Aさんは持って帰る。
帰るときAさんは、食べかけた私に、「ビールでも買うてきたろか」と言ってくれた。
料理教室で自分で作った「肉巻き野菜」をサカナにビールを飲もうとは思わないが、やさしい人だ。
やさしいが口は悪い。
自分でも言ってた。
「ワシは、見かけも口も悪いけど、ハラはええねんで」
「私と逆ですね」
「そんなアホな。そやけど、ワシも、これまで自分のことばっかり考えて生きてきたけど、もうこの年や、他人さんのことも考えて生きていこ思てるねん」
「それは助かりますわ。私はまだ自分のことだけ考えてますから、よろしくお願いします」
「あんたもおもろい人やな。家、どこ?あ、そう。ワシは白庭台。6500万で買うたんや」
聞いてませんよ。
私が、Aさんに、家がどこで、いくらで買ったのか聞いたわけではありませんよ。
聞かれてもないのに、打ち明ける人がいる。
乗馬クラブでいっしょのBさんも、こっちが聞いてないのに、勝手に告白する。
他に趣味が何かと話していたときだ。
「ゴルフやね。商売やめてから、ゴルフは、週三日は行っとるね。・・・嫁はんは、63ですねん」
聞いてません。
奥さんの年なんか聞いてません。
「若いときは、スチュワーデスやっとったんですわ」
知らんがな。
聞いてませんよ。
奥さんの若いときの仕事なんか聞いてません。