鑑真は有名だ。
知名度的には、かなり上位だと思う。
「すごい人、えらい人」として有名だ。
唐から日本へ、度重なる難破をものともせず、命がけで来てくれた。
すごいと思う。
わが国に正式な戒を伝え、東大寺戒壇院で、聖武天皇に授戒した。
えらいと思う。
ふつう、これくらいしか考えない。
見事な像はあるし、小説にもなってるし、とにかくえらい。
図書館で、『宗教を斬る』という、あやしい文庫本を見つけた。
昭和4年生まれの、梶原一志さんという企業経営者の自費出版である。
表紙で、ひげ面のお坊さんが、ニカッ!と笑ってて、いかがわしさ全開であるが、中身はまともだった。
宗教について色々書いてある。
キリスト教やイスラム教にも言及してあるが、主に仏教について書いてある。
梶原さんは、「戒」ってどんなものだろうか調べた。
二百以上あるらしい。
鑑真が命がけで伝えようとしたものだ。
よく知られた、「不殺生戒」や、「不飲酒戒」などのほかにも、人間性の深い省察に基づいた、僧として、人間として守るべき規範が記されていると思うのは素人の浅はかさなのかもしれない。
梶原さんは、「よくまあこんな細かいことまでコウルサク決めたもの」とあきれている。
穴を掘ってはいけない。
人と人の間に割り込んで座ってはいけない。
水の中で遊んではいけない。
軍隊の行進に見とれてはいけない。
貧乏ゆすりしてはいけない。
ご飯をほおばったまましゃべってはいけない。
指でこそばかしてはいけない。
こういうことを、鑑真は命がけで伝えようとした。
これだけではないが、この部分だけ見ると、鑑真は、幼稚園の先生みたいだ。
こういうことをたたきこまなければならなかった。
鑑真は大変だっただろう。
やっぱり鑑真はえらい。