油絵の筆を買いに行った。
8号と10号と12号の筆を買う。
数字が大きいほど太くて長いのだが、店頭で手に取って、あれ?と思った。
12号が一番長くて、次が8号、10号が一番短いのだ。
並んでいるのは全部そうなっていた。
主人に言うと、「う〜ん・・・」と首をひねっていた。
家に帰って古い筆と比べたら、10号は従来品より短くなっていて8号は従来品より長くなって逆転現象が生じたのだ。
単なる作りそこないであろうか。
電車で中年女性二人がおしゃべり。
英語観光ガイドのボランティアを目指している先輩と後輩のようだ。
先輩の方はいくらか経験がある。
「ガイドした人に、また会うことがあるでしょ。そんなときは『アイムハピーツーシーユーアゲイン』(いい発音でした)って言うことにしてるの」
「あ!なるほどね。それはいいね。そういうフレーズをおぼえておいて、さっと使わんとあかんね。ちょっと待ってね」
バッグから手帳を取り出す。
「もういっぺん言って」
「『アイムハピーツーシーユーアゲイン』」
「ふんふん、これは便利やね。使わせてもらうわね。ありがとう」
「でも、観光ガイドとなると日常会話だけではダメやからね。歴史とか文化とか」
「なるほどね、大変やね」
「大変よ。日本語で知ってても英語でどう発音したらいいかわからへんのが多いのよ。百済観音とか高句麗とか新羅とか」
「ほんとやねえ。勉強したの?」
「したよ」
「えらいねえ」
「新羅はわりと簡単やったわ。『シーラーなんとか』って、日本語と似てるの」
「ふ〜ん、新羅は『シーラーなんとか』か」
「楊貴妃も英語でどういうのかわからへんもんね」
「楊貴妃?!ほんとやねえ。大変やねえ」
「大変よ」
「楊貴妃は英語でどう発音するの?」
「・・・忘れたわ。一生懸命おぼえたんやけど」
「大変やねえ」
「大変よ。『メイアイヘルプユー』は使わない方がいいよ」
「え?どうして?」
「わたし、いっぺんそれ使てね、えらいめにおうたことがあるの。『メイアイヘルプユー』って言うたら、向こうがブワーッってしゃべってきて、何言うてるか全然わからへんの」
「うわっ!そうか〜、『メイアイヘルプユー』は禁句ってことね」