カセットテープで音楽を聞くことが少なくなった。
今は、好きな曲を、MDに入れて聞くことが多い。
ipodには手が出ない。
テープでもMDでも、手当たり次第に入れた曲を聞いていると楽しい。
そのうち、曲順をおぼえる。
すると楽しさが半減するように思う。
これは、私が、ラジオのリクエスト番組で音楽を聞き始めたからだろうか。
次に何がかかるかわからない。
私にとって、長い間、音楽はラジオで聞くものだった。
高校一年のとき、隣の席になったM君から、ラジオで音楽番組をやっていることを教えられた。
最初におぼえた洋楽は、M君が口ずさんでいた、ジョニー・ソマーズの「内気なジョニー」だった。
大学を出たころだったか、雑誌を読んでいたら、「美人歌手ジョニー・ソマーズが・・」という文章に出会って、意表をつかれる思いであった。
ジョニー・ソマーズは、美人歌手やったんか!?
ラジオ派の私は、ジョニー・ソマーズに顔があるなんて思いもしなかった。
M君もラジオ派で、歌詞を聞き取って書いたのを見せてくれた。
ラジオ洋楽できたえられたM君は、英語の時間の「カタカナ英語」にがまんできないといっていた。
英語らしい発音で読むべきだというのだ。
クラスメイトの名前を挙げて、あいつもダメ、こいつもダメと容赦なく切り捨てた中で、彼が特に許せないのはS君の発音だった。
憎悪していたといってもいい。
「It is・・・」という文章を、ふつうは「イティイズ」とカタカナで読む。
S君はちがった。
ちょっとどもるくせのあるS君が読むとこうなる。
「糸、糸・・・糸糸糸・・・糸伊豆、糸伊豆・・・」
高校一年の一学期の終わり、父兄懇談会から帰ってきた母が、「S君のお父さん、おもしろい人やね」といった。
母親ばかりの中に、一人だけ父親が混じっていたらしい。
担任の先生から、一学期の成績表が配られた。
S君のお父さんが、「先生!この赤で書いてある数字はなんでしょうか?」と張り切って質問した。
先生は、「い、いや、それはちょっと・・・ぐあい悪いんですわ」と答えた。
面白そうに話す母は、自分が、すぐに息子の赤点で悩むことになろうとは、知る由もないのであった。