若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

胸に抱かれて

母のいる施設に行く。

このところ、母は、息をするのがやっとの状態だ。
口から食べられない。
こうなると、食事はできなくても、栄養プリンを飲み込んでた時が、かなりいい状態だったように思えてくる。

プリンで栄養をとることになった時は、流動食でも食べられた時が、まだよかったんだなと思った。

流動食になった時は、普通の食事を口に入れてもらってたときがマシに思え、その前は、自分で食事ができたころが、というように、螺旋階段を下りるようなこの十数年である。

83歳の男性Nさんは、手を握るのが好きだ。
はじめ、女子職員の手を握るのが好きなのだと思っていたが、そうではなかった。
失礼しました。
私の手でも握りたがってしかたがない。

「Nさんは、手を握るのが好きですね」
大きくうなずいた。
「手ェ握ってたらな、気ィが落ち着くねん」

ああ、そうでしょうね。
忘れてる感覚ですな。

母はベッドで短く息をしていた。
本人に、つらいとか苦しいとかいう意識がないだろうと思うと、少しは気が楽である。

母は、右手で何か抱きかかえていた。
姿勢を安定させるための、長い枕のようなものだ。
こげ茶色の、縫いぐるみのようなものが、ふとんから少しのぞいている。

まるで、母が誰かを胸に抱いているように見えた。
手を握るのも、胸に抱くのも、いい感じである。

久々にいい感じだと思って、じっと見ていたら、一瞬、母が幼い私を抱いてるような気がして、母も弱ってるが、私も相当弱ってると思った。
しっかりせんといかん。