小学三年生のときの担任だったS先生の「集金袋」に書いてあった言葉だ。
その年大学を出たばかりで、新任のあいさつの朝礼台に立った先生がまぶしかったのか、先生の新品の背広がまぶしかったのかわからんが、とにかく先生は輝いていた。
先生が担任だと聞いて私たちは歓声を上げた。
ぴかぴかの体操服で鉄棒をする先生がまぶしかった。
放課後、オルガンを弾いて、教科書に出ていない楽しい歌を教えてくれる先生がまぶしかった。
集めた給食費などを入れる、真っ白い布の袋もまぶしかった。
その袋に先生の字で、「一円を笑うものは一円に泣く」と書いてあったのだ。
母にどういう意味か聞いた。
お金は大事にしなければいけないという意味だと言った。
ぴんとこなかった。
「一円に泣く」はわかった。
お金がなくて泣いている人だ。
「一円を笑う」もわかった。
指でつまんだ一円玉を見て笑っている人だ。
この、一円玉を見て笑っている人と、お金がなくて泣いている人がどうつながるのかがわからなかったのだ。
遠足で「どんづる坊」に行ったときのことだ。
急な斜面を見下ろして休憩しているとき、学年主任格のT先生が、S先生に、「S君、もういっぺん、ここ、降りてみるか」と言った。
S先生が、「イヤア・・」と言うと他の先生達が笑った。
私は、先生が軽く扱われたようで腹が立った。
たぶん下見に来たとき、一番若いS先生が山を登ったり降りたりして状況をチェックしたのだろう。
先生がクラス全員に詩を書かせて新聞に投稿しようとしたことがある。
そのとき、私は七五調の詩を書いたので、先生は扱いに困ったと思う。
楽しい思い出ばかりというわけにはいかない。
当時NHKラジオでよくスポーツ中継を聞いた。
スポーツ放送が始まるときに流れる勇ましい音楽が私は好きだった。
長年聞いたからひょっとすると今でも同じ曲かもしれない。
音楽の授業だったか、私は手をあげて、あの曲はなんという曲ですかと質問した。
有名な曲かと思ったのだ。
先生は答に詰まった。
「・・・あれは・・・吹奏楽だ」
私は、先生はごまかしたナ、と思った。
非常にがっかりした。
そんな経験があるので、子供をごまかしてはいけないと肝に銘じている。
私はおとな専門だ。