若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

トンビが輪を描いた森

子供の頃、トンビはいいなと思った。

飛ぶというより滑空してるというか滞空してるというか、気楽でのんきそうだ。
トンビはいつもウチの近くの森の上を輪を描いて飛んでいたような気がする。

森といっても、子供にとっては森でした、という程度のものだった。
小学二年生までの子供にとってはうっそうたる森であったといえる。

小さな「森」なのに、その半分は切り開かれ一部は畑になっていた。
「一色さんのおじいさん」が耕していた。

「一色さんのおじいさん」は山口さんの家に住んでいた。
山口さんには、私よりいくつか上の女の子がいたので、その家は私達にとっては「山口さん」なのであったが、大人たちは時々「一色さん」といった。

山口さんなのになぜ一色さんなのか、子供の私には不思議であったが、別に不思議でもなんでもなく、一色さんの一人娘が山口さんという男性と結婚して親と同居していたのだった。

一人娘といってもすでにおばさんであったが、ふっくらした、いかにもやさしそうな人だった。

ある日、母が、山口さんのおばちゃんが、おじいさんが、子供が畑を荒らすので怒ってるといってたと私に告げた。

ふ〜ん、と思った。
「森」一帯は、私達の遊び場であった。
おじいさんが何かしてるな、とは思っていたが、畑のことなんか気にしてなかった。
もちろん、荒らしてるつもりなど毛頭なかった。

おじいさんは、畑が再三荒らされるので頭にきていたようだ。
ちなみに、おじいさんの頭はツルピカであった。

おじいさんが、きのう気になって見に行ったところ、男の子が数人畑を荒らしていた。
コラーッ!と怒鳴ったら、クモの子を散らすように逃げて行った。
後姿なので確認できなかったが、そのうちの一人はどうも、お宅の鹿之助ちゃんではないかと思う。
今度からはっきりわかるように、頭の後ろにシルシをつけておいてもらいたい。

おじいさんは、こういったというのだ。

身におぼえのある私はギクッとした。
母が、私の後頭部にシルシをつけると言い出すのではないかと非常に心配であった。

私が反省して畑を荒らさなくなったのか、成長して「森」で遊ばなくなったのか、おじいさんが畑を耕さなくなったのか、あるいは死んでしまったのかわからんが、それ以後、「森」も畑も私の記憶からは消えてしまってる。