朝、S君から電話。
彼は、元天才油絵少年で、東京芸大卒、現在国立大学教授だから、経歴を聞いた人は、立派なものだと思うだろうと思う。
私は、高校時代からの長い付き合いだから、立派とか立派でないとか考えたことはない。
私みたいに、親しく彼のことを知らず、経歴だけ聞いた人は、立派なもんだと思ってしまってもしかたがないでしょうな。
さて、そのS君から電話がかかった。
朝っぱらから、なんじゃ。
「モナリザの謎が解けたぞ!」
彼の経歴だけ聞いた人は、なんだかわからんが、「それはすごい!」と思うだろうと思う。
「モナリザの謎」が何かは知らないが、とにかく相手は国立大学教授、すごいと思っても無理はない。
長い付き合いの私は思わない。
「ふ〜ん」
「聞こえてるんか?モナリザの謎が解けたんやぞ!」
「ふ〜ん」
「モナリザのうしろに、何が描いてあるかわかったんや!」
「モナリザのうしろ?・・・風景やろ」
「風景や。風景やけど、モナリザがいてるから、モナリザのうしろに何があるか、見えへんやろ」
「あたりまえやがな」
「それが、わかったんや」
「ふ〜ん」
「聞こえてるんか?モナリザのうしろに何が描いてあるか、発見したんや!」
「風景の一部やろ」
「まあ、聞け。モナリザのバックの風景の、左と右で、水平線が食い違ってるのは知ってるか?」
「知らん」
「食い違ってるんや。これは、ルネッサンス美術の専門家の間ではよく知られたことや」
「いや、ワシは知らんな」
「やかましー。黙って聞け。それと、モナリザのバックの風景の中で、人工物としては、橋だけが描かれてる。これも、ルネッサンス美術の専門家の間では、昔からわかってた事実や」
「だから、ワシは知らんて」
「だから、黙ってろって!で、モナリザのうしろがどうなってるかは、長年の謎やったんや。それを、ボクが発見したんや!何が描いてあるか見えたんや」
「モナリザに、どいてもろたんか」
「やかましー。モナリザのうしろには、旧約聖書の、ノアの箱舟!ノアの箱舟が描いてあったんや!箱舟から、人や動物が降りてくるところが描いてあったんや!」
「えっ!ノアの箱舟!?そ、それはすごい!X線撮影でもしたんか?」
「いや、きのう、夢で見たんや!」
「・・・あ、あ、あのねー、き、き、きみねー」
「誰にも言うなよ!」
興奮のあまり、早朝に電話してきたようです。