小松左京さんが亡くなった。
日本のSF小説界を代表する作家であり、長年にわたり多方面で活躍した人だ。
私にとって、小松さんは「エライ人」である。
小松さんの『日本アパッチ族』を読んだのは、高校か大学のころだ。
それ以後、小松さんの小説を読まないので、あまり気に入らなかったのだと思う。
さて、ワインの話になる。
四十年ほど前だと思うが、サントリーが鳴り物入りで「貴腐ワイン」を売り出したことがある。
「日本初!」だったと思う。
幻のワインとかワインの王様とか百年に一度とか、まあ、そんな風な宣伝であった。
自然界の複雑微妙な条件に恵まれて奇跡的に生まれたワイン!
日本で本格的ワイン作りがはじまってウン十年、ついにこの日がやってきたのである!
ワインになんの関心もなかった私は、ふ〜ん、と思ってた。
ワインには関心なかったけど、「貴腐」は気になった。
なんじゃそれは。
「貴腐」でっせ、「貴腐」!
なんとおどろおどろしい響きではないか。
「貴」と「腐」が両立するとは。
貴腐ワインの発売は、サントリー一社にとどまらず、国を挙げての慶事という勢いであった。
新聞の全面広告にとどまらず、大阪の一流ホテルに各界の著名人を招いて、大々的に貴腐ワイン完成発売記念パーティをぶちかました。
たまたま聞いていたラジオ番組が、そのパーティの模様を取材してた。
アナウンサーが大勢の招待客の中から小松左京さんを見つけてマイクを向けた。
「小松さん、貴腐ワインのお味はいかがでしたか」
「貴腐ワイン!?ええ梅酒やなあ!」
う、う、梅酒?
奇跡の「貴腐ワイン」が梅酒・・・・?
ざわめきの中で小松さんは実に愉快そうであった。
その後しばらくして、その奇跡の貴腐ワインを飲む機会があった。
ウチが買ってた酒屋さんが試供品を持ってきてくれたのだったと思う。
恐る恐る一口飲んで、「梅酒や!」と思った。
小松さんに激しく同意した。
関西を代表する文化人として一流ホテルに招かれ、サントリーが巨額の宣伝費をかけて売り出そうとする貴腐ワインを、「ええ梅酒やなあ!」と言い放った小松さん。
その一言で、私は小松左京さんを長く尊敬することになったのである。
真実を語ることの大切さを小松さんは教えてくれた。
合掌。