『トスカの接吻』というDVDを買いました。
イタリアの音楽家のための老人ホームを舞台にしたドキュメンタリー映画です。
以前テレビで見ました。
なんとなくしみじみする映画で、家内がもう一度見たいというので、アマゾンで調べたら、中古しかなくて、高い!
プレミア付きというのが腹立つけど、しかたなく買いました。
作曲家のヴェルディが、音楽家の老後のために作った施設で、彼の著作権収入で運営されてました。
この映画が出来た時には、著作権が切れて20年以上立つので、運営が苦しくなってたようです。
登場するのは、年老いたオペラ歌手や、音楽理論の教授たちです。
「過去の栄光にすがって生きている人たち」というと、なんだかみじめったらしいですが、堂々と見えないこともなく、おかしくもあり、おごそかでもあり、さびしくもあり、まあ不思議な感じです。
元有名テノールの老人が、大きなトランクから衣装を次々と出して、過去の栄光をしのぶシーンがあります。
私の若草山でのキンキラキン衣装は、家内が捨ててしまったので、私は衣装を出して過去の栄光に浸ることはできない。
残念である。
さて、テノール老人は、深紅の衣装を取り出して、「これがトスカ(だったかな?)の時着た衣装だよ。スペインで作らせた。金色だったのにすっかり色があせてしまった」というので、ほほ〜、金色があせると真っ赤になるのか、と感心して見てたら、「いや、ちがった、これはリゴレットの衣装だったといったのでカックンとなりました。
「カックン感」あふれる映画です。
プッチーニのオペラ『トスカ』のトスカ役で有名だったという女性が、同じ施設内の女性の部屋を訪ねます。
「来てくれてありがとう」
「この部屋は何号室?」
聞かれた女性は自分の部屋の番号がわかってないようで、「あとで教えるわ。それより、表札を見ればわかるじゃない。私の名前が書いてあるわ。それに、あなたの部屋の隣なんだし」
カックン。
電話ボックスで、別のテノール老人が電話を終えたところに、トスカの女性が通りがかった。
ボックスから出た男性が、彼女に向かっていきなり大音声で、「トスカ!!!」とどなりつけたので、一瞬、この人アタマおかしいのかと思いました。
ちがいました。
この人、彼女を見た瞬間、オペラ「トスカ」に入ったんです。
電話ボックスから出てきた男性にいきなりどやしつけられて一瞬たじろいだ女性もすぐトスカになりきり!
「死ね!」と叫んで腕を振りあげると、男性をナイフで切りつける仕草をしました。
さすが往年のオペラ歌手同士です。
息が合ってます。
「死ね!死ね!これがトスカの接吻よ!」
男性は、どうと倒れて横たわりました。
上半身は電話ボックスの中、下半身は廊下という、苦しい横たわり方です。
男性を見下ろして、女性は切々と歌い始めました。
当たり役トスカに完全に入ってしまってます。
切々と歌い続ける。
とちゅうで、男性が、「もう立ってもいい?」と聞きました。
不自然に横たわってるのがしんどくなったんでしょう。
女性は冷たく、「ダメ!」と言って歌い続けました。
歌い終わったと見るや男性はすっくと立ち上がり、朗々と「リゴレット」(?)を歌いだしました。
女性は、ムッとした表情で、「あなた、死んでるのよ」と言いました。
無視して大声で歌い続ける男性に向かって、「あなた死んでるのよ!」
やかましー!歌わせろってんだ!
施設の職員の話もありましたが、「いやあ、センセーたち、たいへんなんですよ〜」という感じでした。
異色の名品でございます。