若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

「ジャンニ・スキッキ」

プッチーニのオペラ「ジャンニ・スキッキ」をテレビで見た。
オペラに関心はないけれど、名曲「私の大好きなお父さま」がどんな場面で歌われるのか興味があった。
実に美しいメロディで、名曲中の名曲だと思う。曲を聞かなくてもタイトルだけで娘を持つ父親なら倒れそうになる。

この曲を聞くときはいつも、歌手が歌う前に私にあいさつするように思う。
「お父さま。はなはだ僭越ではございますが、お嬢様に成り代わりまして、この曲をお父様に捧げたいと存じます」
歌い終わると、「ご静聴ありがとうございました」と深々と一礼して下手より退場。

何と歌っているのかわからないが、父親に対する心からの感謝と愛情を切々と歌いあげていることは間違いないので、文部科学省は、義務教育を修了した女性にこの歌を毎月父親の前で歌うよう義務付けるべきだと思っていたが、父親を脅迫する歌だと書いてあるのをどこかで読んで不審に思っていた。

さて、物語は、大金持ちの老人が死んだ場面から始まる。遺産目当ての親族が集まるが、遺言状には全財産を修道院に寄付すると書いてあったので大騒ぎになる。
一同悲嘆にくれていると、相続人の一人リヌッチオ青年が、恋人ラウレッタの父親なら名案をひねり出せるのではないかと考える。それが、海千山千の成り上がり者ジャンニ・スキッキだ。
実にテンポのいいどたばた喜劇だ。怒鳴りあい、わめきあい、死体を動かしたり、オペラというより、オペレッタか喜歌劇という感じだ。どっちも知らんが。

娘とともに現れたジャンニ・スキッキは、田舎者成り上がり者とバカにされて、怒って出て行こうとする。と、娘のラウレッタが父親の腕をつかみ、名曲「私の大好きなお父さま」を歌いだす。
それまでの、どたばたハチャメチャ路線から突然というか藪から棒というか唐突にというか、可憐に切々と歌いあげるのが絶妙のタイミングだ。
ただし、歌詞は恋人と結婚したいと言うだけだ。恋人のために遺産をふんだくってやってほしい、そのカネで指輪を買いたいの、でなけりゃ私、川に身を投げて死んでしまうわよ。

愛する娘のためならば地獄に落ちてもいいという父親の弱みに付け込むとんでもない娘だ。
「私の大好きなお父さま」なんて口先だけだ。
こんな歌はダメだ。
オペラは私好みで完璧だが、この歌はダメだ。