若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

乗り間違い

今朝の電車。
乗ってきた中年の女性が、ドアが閉まった瞬間、「あっ!」と叫んだ。電車が動き出すと、「あ〜〜〜」と、ため息とも悲鳴ともつかない声を出した。
乗り間違えたんですな。気の毒である。

何年か前、近鉄大阪線五位堂駅付近の会社に行ったことがある。五位堂に行くのは初めてであった。ウチの会社の近くの布施駅から、急行で20分ほどだったと思うが、この線を利用することがないので非常に遠く感じる。

「五位堂」という名前は、かなりの歴史的距離をも感じさせる。
「ひばりが丘」とか「学園前」みたいな、新しい地名でないことは確かだ。
布施駅で時刻表を見たら、急行は五位堂までとまらない。急行を待って乗った。ホームを中年の女性二人が大声で話しながらやってくる。話に夢中だ。
話しながら乗ってきた。
電車が動き出した。途切れることなくしゃべっている。
生命保険の外交員のようで、何かの集まりに参加するようだ。

次の駅に近づいたとき一人が叫んだ。
「いやっ!これ、止まれへんのとちがう?」
「なんで」
「スピード落とさへんやん」
「や!ほんまや!」
「あ〜・・・止まれへんわ〜」
「あははは、これ、準急やったんや!」
「あははは、しゃべってたから」
「準急は・・・八尾で止まるんや」
「わー、八尾から引き返さんならん。十分ほど遅れるな」
「言われるわ。『どうせ二人でべらべらしゃべっとったんやろ』」
「あははは、言われる言われる」

どうしてこの人たちが準急だと決め付けるのか不思議でならなかった。
八尾から引き返すつもりの二人は、べらべらとしゃべり続けていた。
「いやっ!どうなってるん?」
「なに?」
「八尾やんか、ここ!」
「止まれへんの?」
「いややわ〜」
「・・・ちょっと、あんた、山本やろ。準急止まるの」
「・・・山本か!」
「あほとちがうか」
「あはははは、山本か」
「あははは」

乗客の期待を乗せて急行列車は山本駅へ向かった。
乗客の期待も知らず、二人はしゃべり続けている。
「あれ?もう山本とちがう?」
「えらいスピード上げてるやん」
「えー!ひょっとしてこれ急行か?」
「うそ!」
二人は車内の路線図を見た。
「急行、五位堂まで止まれへんやん」
「五位堂・・・」
「五位堂・・・」
静かになった二人に、乗客は満足げであった。