若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

伴奏とはなにか

6月の発表会で、Yさんが歌う「思い出のグリーングラス」の伴奏をすることになった。

歌の伴奏をアコーステイックギターでやるのは初めてである。
これまで、アコースティックギターの名手琉金之助君が長年勤めてきた役だが、彼がやめたので、尊師は仕方なく私にやれと言われたのである。
ひょっとするとYさんの歌だから私でいいと思われたのかもしれない。

Yさんは、この名曲をよりにもよって、トム・ジョーンズ・バージョンで歌おうというとんでもない野望を抱いてしまった。
これは難しいです。
トム・ジョーンズは、歌うがごとく語るがごとく、楽譜にとらわれず自由自在に歌う。
Yさんとちょっと似ているとも言える。
トム・ジョーンズが「楽譜にとらわれない」なら、Yさんは「楽譜をとらえられない」歌い方だ。

私は、楽譜通り歌うよう進言した。
Yさんもしぶしぶ了承したので、私が楽譜通りにメロディを録音したMDを渡した。

先日のライブのあと、「どうですか」と聞いたら、「あかん、楽譜通りに歌えん」と告白した。
「どうもいかんわ。トム・ジョーンズで覚えてしもうたからな〜」
これを一言多いという。
「楽譜通りに歌えん」としょげているだけならかわいげがあるのだが、この一言でカチンと来る。

「ほんまやなー!」と言いたくなる。
「絶対やなー!」と言いたくなる。
トム・ジョーンズで歌うてみー!」と言いたくなる。

レッスンで、とりあえず尊師に聞いてもらった。
Yさんが歌い、私がギターを弾いた。
二回、苦悶の表情を浮かべて聞いておられた尊師は、聞き終わるとすっきりとした表情で言われた。

「こうしましょう。Yさんは何も気にせず適当に好きなように歌ってください。で、歌の切れ目でギターを入れましょう」

Yさんが適当に歌い始めた。
尊師のギターが歌う。
おお!すばらしい!
Yさんによって、原形をとどめないまでに、見るも無惨に崩されたところの悲劇の名曲「思い出のグリーングラス」が、今尊師のギター伴奏によって鮮やかによみがえる!
崩れているのではなく、崩しているかのように聞こえるではないか。
伴奏は大事ですねー。

本番では私が弾くので、Yさんが崩しているのではなく崩れているのだということがあからさまにわかってしまうのは小生不徳の致すところとは言うもののお気の毒である。