若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

肖像画

私は、肖像画家の端くれである、と思ってます。

家族以外で、20人ほど描いてます、というか、描かせてもらってます。
評判が評判を呼んで依頼が殺到して困るということは、今のところない。
先のことはわからない。
困るかも知れない。
心配である。

肖像画で難しいのは、モデルが、できあがった絵を見るということですね。

バラを描いても富士山を描いても、彼らが絵を見てどうこう言うことはない。
肖像画のモデルは、自分の絵姿を見て、どうこう言わないまでも、どうこう思ってますよ。

これまでに文句を言われたのはただ一度。
家内の父を描いたとき、「ワシはこんなにじじむさいのか」と言われた。
10歳ほど若く描いたつもりだったけど、そう言われた。

まあ、みなさん腹の中では似たようなもんだろうと邪推してます。

肖像画名人J・S・サージェントの作品集を見ると、さすが名人、わがままですよ。

私みたいに、来た人をさっさと描くんじゃないです。
2、3時間、4、5回すわってもらって終了、というようなんじゃない。

1週間で80回すわらされたという人もいます。
持ってる服を全部出せ、持ってるアクセサリーも全部出せと言われた人もいる。
サージェントが一番気に入った格好をさせて描く。

髪型を変えろと言われた人もいる。
服と髪型のことで「バトルだった」という人もいる。

冷房もない時代、真夏に毛皮のオーバーを着せられて、汗だくになって何度も何度もすわらされて、たまりかねて文句を言ったら、「芸術のためだ。それくらいがまんしろ」と言われた人もいる。

言いたい放題である。
それでも注文が殺到した。

私とは大変なちがいである。
どこがちがうのであろうか。

今度買ったサージェントの本は、彼の周囲の芸術家たちを描いた作品を集めてある。
19世紀アメリカを代表する名優、エドウイン・ブースの肖像の解説を読んでびっくりしました。

この肖像が描かれる一年ほど前に、エドウイン・ブースの弟が、リンカーン大統領を暗殺したというんです。

びっくりはそれだけじゃなくて、このエドウイン・ブースさんは、その前にリンカーンの息子が汽車にひかれるところを助けてるんです。

読んでて頭がこんがらかるような話です。