絵の本をいろいろ読んでると「忘れられた画家」が多い。
「上手な絵だなあ。でも知らない画家だなあ」と思ってウイキペディアで調べると、「大成功をおさめた世界的に有名な画家であった」と書いてあったりする。
19世紀のフランスの画家、エルネスト・メッソニエを知ってる人は少ないと思います。
「忘れられた画家」です。
忘れられた、というからには当時は有名だった。
有名だったどころの騒ぎじゃないです。
世界中に、と言ってもヨーロッパとアメリカですが、名前が鳴り響きとどろきわたってた。
批評家の受けもよく、画家たちの尊敬も集め大衆的人気もあった。
フランス皇帝ナポレオン三世が大英帝国ビクトリア女王にプレゼントするような絵であった。
早い話が、この人の絵は当時世界で一番高かった。
「フランス美術史上最高の価格」と言われたり、「天文学的数字」と言われたりした。
新作が売れるたびにそう言われた。
億万長者でないと買えない。
となると、買いたい!と思う億万長者が増える。
ますます値段が上がる。
ルノワールがある銀行家に「絵を買ってください」と頼んだとき、「キミの絵は安すぎる。私はメッソニエの絵がほしいんだ」と言われたそうです。
ドラクロアは「同時代の画家で、後世に残るのはメッソニエだけだろう」と語った。
お城のような家に住んで、画家として初めて最高位のレジオンドヌール勲章を受章した。
亡くなると、ルーブル美術館の前に巨大な大理石像が建てられた。
ここまでは、おもしろくもなんともない話です。
ここからがおもしろい。
急激に忘れられていくんですね。
「現代芸術の敵」みたいな扱いを受けるようになる。
1960年代、文化相アンドレ・マルローは、ルーブルの大理石像を撤去させた。
当時最高価格でアメリカの大富豪に買われた作品は、今、メトロポリタン美術館の「マネの部屋」に通じる廊下に飾ってあるそうです。
メッソニエの絵は力作ぞろいです。
徹底的に細部にこだわった絵です。
ナポレオンを描くときは、ゆかりの人々からナポレオンが使った馬具や服などを借りて、徹底的にこだわって描いた。
この人の絵が、なぜ当時の人の心をつかんだのかよくわからんし、なぜ急激に見放されたのかもよくわかりません。
人気というのは恐ろしいもんです。
メッソニエは歴史に詳しかったので、栄枯盛衰、世の移ろいということをよく語ったそうです。
自分が忘れ去られる日が来ると想像していたかどうかはわかりませんが。
先日読み終えた、ロス・キングという人の『パリスの審判』は、メッソニエとマネの十年ほどを取り上げています。
しみじみとさせられる本でした。