自主防災会会長のKさんに呼ばれて分館に行きました。
防災訓練の打ち合わせです。
分館長の私がなぜ呼ばれたのか。
一年交代の役員のなかで、私は3年目なので、長老というか生き字引というか、すべてを知る男として、まあ頼りにされるんです。
きのうのことでも忘れるのに、去年の防災訓練のことなんか聞かれても困るんですが、そこはまあ適当にごまかして、生き字引のふりをするくらい軽いもんです。
Kさんは、私と同年配、小学校の校長を務めたかたで、いつもニコニコと笑顔を絶やさぬ、どこから見ても温厚篤実という感じです。
打ち合わせがすんで、Kさんが、「いやあ、助かりました。いつも助けていただいて。自治会の役員を引き受けて、はじめは一生懸命やろうとしてたんですが、とちゅうで夢にまで見るようになって、何度ももう投げ出したいと思いました」と言ったのでびっくりしました。
いつもニコニコひょうひょうとこなしてる感じで、さすが元校長さん、と思ってたんです。
それに、Kさんの役は、私が一昨年やったんですが、投げ出したいほどのものじゃないと思うんですが。
Kさんがよほどまじめに取り組んで、私がよほどいい加減に取り組んだということですかね。
「若草さんは3年目ですか。やはり、二、三年はやらなければだめですね。ヒマがあるなら二、三年はやるべきなんでしょうね」
「Kさんは忙しいんですか」
「・・・(にこにこ)」
「退職されてどれくらいですか」
「60才定年ですから・・・(にこにこ)」
「10年ですね」
「そうなりますかね〜(にこにこ)」
「かね〜って、10年でしょ」
「・・・10年です(にこにこ)」
「忙しいんですか」
Kさんは、にこにこしながら私に手を合わせた。
生き字引から生き仏になった気分であった。