朝起きたら霧でした。
たまには霧もいいもんです。
家にいるだけの気楽な身分なので気楽なことを言ってられる。
この霧で大変な人もいると思います。
新聞を取りに出たら、霧の中から人影が見えてきた。
Aさんだなと思いました。
ウチの前はT字路になってます。
ウチの前から南に向かって道が伸びてるんですが、この直線部分を、毎日朝夕、ご近所の80代女性Aさんが、行ったり来たりの「ウオーキング」をするんです。
毎日欠かさずえらいと思います。
以前は町内をぐるぐる歩いてたそうです。
高齢になって危ないので、家の前を行ったり来たりに変えたんだそうです。
5、60メートルくらいの行ったり来たりです。
エンエンと行ったり来たり。
町内ぐるぐるよりも、家の前5、60メートル行ったり来たりのほうがえらいような気がします。
なんちゅうか、禁欲的というか、求道的というか、修行というか、そんな感じ。
いや、町内ぐるぐるが物見遊山というんじゃないですが。
霧の中から、えっちらおっちら近づいてきた小柄でコロンとしたAさんに声を掛けました。
「おはようございます。霧ですねえ。道に迷わないようにしてくださいね」
Aさんは、「はい」とうなずいて、くるりと霧の中に消えて行った。
私の会心のジョークも霧に紛れてしまったようです。