部屋のドアを修理に来てもらいました。
5年ほど前にも来てくれた人でした。
頭はツルピカだけど60くらいかなあと家内が言いました。
そんなとこだろうと思いました。
黙々と仕事をする人です。
下が終わって二階に上がりました。
二階のドアを点検しながら、「奥さんのお知り合い、電車で倒れはったんですね」と言った。
下で家内が電話で話してたんです。
黙々と仕事してたけど集中してたわけではないみたい。
「私も4年前に倒れたんです。あの・・・なんて言うんですかね・・・あの・・・倒れること・・・え~っと・・・意識を亡くして倒れることを何と言うんでしたかね」
「失神ですか」
「そうそう!失神!失神!失神したんです!便所で失神したんです!」
便所で失神!
聞きたくない!
便所で失神した話、聞きたくない。
トイレで失神はまだ許せるけど便所で失神は聞きたくない。
「便所でね、え~っと・・・大だったか小だったか・・・う~ん・・・どっちやったかな・・・」
どっちでもいいけど聞きたくない。
「あ、大です大です。ズボンをおろしてましたから。いや、ズボンを下ろす前だったか・・・いや、あげる前だったか・・・」
どっちでもいい!
「貧血の感じあるじゃないですか。クラ~っとなったと思ったら次の瞬間、目の前がトイレのタイルなんですよ。目の前が。ここですよ。ここがタイル。わかります?これ、どういうことかわかります?」
わからん。
救急車で運ばれて入院。
病院での便の状態を説明してくれた。
うれしそうに。
血がどうだとか泡がどうだとか詳細に写実的に説明してくれた。
カットします。
仕事がすんでも話は続いた。
下に降りて伝票を書く間、家内に同じ話を繰り返した。
家内にまで便の様子を詳細に話すとは思わなかった。
家内が苦笑しながら「年をとるといろいろありますものねえ」と言ったらぱっと顔が輝いた。
「奥さん、私、59歳なんですけど若く見えますでしょ!」
どうです!という笑顔に家内はぐっと詰まった。
詰まりながらもさすが年の功、「・・・若く見えますねえ」と絞り出すように言った。
「いくつくらいに見えます?」と追い打ちをかける。
追い詰められて苦しまぎれに「う~ん・・・ご、ご、50代前半に見えますね」
「50代前半!?!?」
不満そうであった。
焦った家内が話を変えようとした。
「主人も若く見えるけど喜寿なんですよ」
パッと私を見た。
「え~~~っ!!!きゅ、きゅ、きゅじゅう!!」
あほか!
だれが90じゃ!
そんなことやから便所で失神するんじゃ!