「Your majesty」というのは王様や女王様に呼びかけるときの言葉である、と辞書に書いてある。
なぜそんなわけのわからん呼びかけ方をするかというとはっきり呼びかけるのは恐れ多いからだと書いてある。
これはおぼえておいて損はない、とは言えない。
おぼえたら損とまでは言わんけど。
発音の練習をするのは損というかムダと思います。
アメリカの軍人ルシアス・クレイの伝記で、クレイがイギリスの政治家アーネスト・べヴィン(1881~1951)の思い出を語ってます。
アーネスト・べヴィンはイギリスの田舎の貧しい母子家庭の出身で、小学校に2年通っただけで11歳から働きに出た。
トラックの運転手をしているときに労働運動に目覚め、のちにイギリス最大の組合になる運輸労働組合を組織した。
労働党員として政治の世界でも認められて第二次大戦中はチャーチル首相の下で労働大臣を務めた。
イギリスの外務大臣は代々エリート層の指定席だったからべヴィンの就任は異例中の異例だった。
戦後のドイツ処理について米英仏ソ4か国外相会議が何度も開催された。
クレイはアメリカの占領責任者としてべヴィンと知り合った。
二人はたちまち意気投合した。
クレイの第一印象。
「アーネスト・べヴィンは筋骨隆々の大男で身なりは構わずいかにも労働者階級出身という外見で英語とは思えないほどなまりがきつかった。しかしすばらしい知性の持ち主で生まれながらの紳士であることはすぐわかった」
1947年、ロンドンで4か国外相会議が開かれたときクレイもアメリカ代表団の一員としてバッキンガム宮殿の歓迎会に出席した。
クレイがほかの出席者と話していたらべヴィンがやってきて腕をつかむと引きずるようにしてイギリス国王ジョージ6世の前に連れて行った。
べヴィンがジョージ6世に向かって「King!」と呼び掛けたのでクレイは腰を抜かさんばかりに驚いた。
「大ブリテン諸島の住人で国王に向かってKingと呼びかける人間がいようとは!」
ここは「Your majesty」でしょう、と思ってたらべヴィンはなまり丸出しで続けた。
「王さん!おいどんはおまはんに紹介したか男のおるばってん・・・」
クレイはべヴィンは自分のしていることを十分理解していたはずだと言ってます。
「Your majesty」を使わない生き方に感銘を受けたようです。