朝刊に、若者のキャッチセールスによる被害が後を絶たないという記事。
エレキギター教室に通い始めた頃、奈良駅周辺には、キャッチセールスの若者がたくさんいた。狙いをつけた二十歳前後の男女に、銀蝿の様にまとわりついていた。
私は、「アンケート調査にご協力お願いします」と叫ぶ彼らが、何を売ってるのか、非常に興味があった。
一度でいいから、キャッチされたいと思っていたが、ギターを担いで歩く私に声をかけてくるやつはいなかった。
次々とキャッチされる若者たちを、私はうらやましそうに見ていた。そして、キャッチセールスの若者たちの方を、ものほしそうに見たり、ウインクしたりして合図を送ったのであるが、それでも私には声がかからなかった。
すっかりあきらめていたある日のこと、後ろから声がかかった。
「アンケート調査にご協力お願いしま〜す!」
驚いて振り向いた私の顔を見て、声をかけた若者が驚いた。
「あっ!・・あ・・あ・・失礼しました」
と言って向こうへ行ってしまった。
傷ついた。
そして運命の時がきた。
その日は雨が降っていた。
傘をさして歩く私に、声をかけてきたやつがいる。
「アンケート調査にご協力お願いしま〜す」
やった!と思った。私は一層傘を下げて、そっぽを向きながら
「歩きながらで良かったら」と言った。
「あっ、結構ですよ!」バカは喜んでいた。
思わず笑いがこみ上げてくるのであった。
彼は歩きながら、ペラペラしゃべった。
「ギター習ってるんですね。友達はいますか?本当の心の悩みを打ち明けたり出来る友達はいますか?なかなかいないですよね。日本は物質的には豊かになりましたが、精神的にはかえって貧しくなってるんじゃないでしょうか?」
何が言いたいのか?教室の近くまで来てしまったではないか。
結論を急ごう。
「キミたち、何を売ってるの?」
「イヤ、ボクたちは、キャッチセールスじゃありません!日本をより良くしようと、青年の意識調査をしてるんです」
「青年の意識調査!?私は青年か?」と傘をあげた。
「あっ!」と叫ぶと彼はのけぞった。
「し、失礼ですがおいくつですか」
「48」
「よ、よ、48!わ、若く見えますね!ギターがんばってください」
と走って逃げようとする腕を捕まえて、
「青年の意識調査、協力する!」
「放してください!放してくださーい!」