若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

体当たり自爆おばさん

駅でよく、「危険ですから駆け込み乗車はおやめください」という放送をする。
私の辞書に、「駆け込む」という言葉はない。
「しゃがみこむ」「へたりこむ」ならありますが。

今朝のおばさんはすごかった。
ドアが閉まった後で、物凄い勢いで体当たりしたのである。
これがパレスチナなら、過激派グループ「オバ・ハーン」の自爆テロと間違われて射殺されても、文句は言えないところである。
それほどの過激さであり無謀さであった。

いったいどういうつもりなのか。体当たりでドアをぶち破ろうとしたのか。体格的には不可能ではないと思われたが。

駅員は黙って見ていたが、そのおばさんにつかつかと近寄った男があった。
あのおじさんだ!久しぶりである。

64、5歳の、頭のはげた、人のよさそうなおじさんである。
いつも手提げの紙袋を持っている。
そして、電車に乗ると、その紙袋を、プラスチックのS字型のハンガーで、つり革にぶら下げるのである。
うちの息子たちの間では、「ハンガーおじさん」と呼ばれているらしい。

ぶら下げると、車内をうろつく。
この人は口がきけない。
ギターを持った若者がいると、その前に歩いていって、若者に、言葉にならない声をかける。そして、ギターを弾く身振りをする。

そういう、たいしてはた迷惑ではないおじさんである。
その人が、体当たりおばさんに近づくと、自分では恐い顔をしているつもりであろうが、ぜんぜん恐くないところの顔でもって、おばさんをにらんだ。
そして、なんだか声を出して、おばさんと電車を交互に指差すと、手を大きく左右に振った。

「危険ですから駆け込み乗車はおやめください」と言ったのだと思う。

おばさんはびっくりしたような顔でおじさんを見た。
駅員は笑っていた。

おばさんは急ぎ足で向こうへ行った。
おじさんもついて行った。
おばさんに追いつくと、また、おばさんと電車を指差して、恐くない顔でにらむと、手を大きく振った。

おばさんは苦笑して、走って逃げた。
おじさんは、紙袋を提げて、しつこく追いかけていった。

おじさんは、このおばさんのことを、心から心配してあげているのであろう。