若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

ふるさとの山はありがたきかな

きのう、画廊の帰りの電車。

奈良行快速急行に乗りました。
南側の座席にすわったので、日よけがおりてました。

地下を走ってた電車が鶴橋駅で地上に出てしばらくすると、私の隣にすわってた男性が、もぞもぞしはじめた。
70代半ばと思える男性です。

何をしてるのかと思ったら、隣の席の日よけを上げようとしている。
なぜ隣の日よけを上げるのだろうか。

三分の一ほど上げました。
隣の男性は関係ないけど、そこにすわってた二人には午後の日差しが当たるのであった。
なぜそんなことをする?

ヘンな人だと思って見てたら、その人は身体を斜めにして、三分の一ほど開いた日よけの間から、進行方向をじっと見ているのであった。

外を見たいからあけたのか。

と納得したのであったが、男性は身じろぎもせず、じ〜〜〜っと進行方向を見てる。
私も身体を斜めにして、いっしょになって進行方向を見た。

おもしろくもない大阪市の街並みが、おもしろくもない東大阪市の街並みになっていくだけであった。
それを、じ〜〜〜っと見ているのであった。

お!
ちがった!

男性は、生駒山を見ているのだ。
進行方向の彼方に見える生駒の山を見ている。

この人は、奈良からブラジルに移民した人で、数十年ぶりに帰国した人ではないか。

ふるさとの山はありがたきかな。

男性の肩のあたりにそんな感じがにじみ出ているように思えるのであった。

でも、手には紙袋一つ。
移民の一時帰国という感じじゃない。

エンエンと進行方向を見つめていた男性が、正面を向いてメガネをはずした。

お!
涙をふくのか。

やっぱり、ふるさとの山はありがたきかな、かもしれない。
と思ったけど、男性は涙をふかず目をこすっただけで、また窓から進行方向を見た。

20分ほど進行方向をじっと見続けていた。
私も付き合って、20分ほど見続けていた。

そのうち、電車は生駒の山を登り始めて、大きく左にカーブした。
もう生駒山は見えない。

すると、その人は外を見るのをやめて正面を向いた。
私たちの正面、眼下に大阪平野が広がっている。
大阪平野を見下ろして電車は走っている。

ところがその人は目を閉じてしまった。
大阪平野には関心ないようだ。

やはり、ふるさとの山はありがたきかな、だったのかもしれない。

日に焼けたほほのあたりに、そんな感じがにじみ出ているように思えるのであった。

きのうの午後4時ごろ、近鉄奈良線奈良行快速急行車内で、ならんですわったおじさんが二人、日よけを三分の一ほど上げた窓から20分ほど生駒の山を見続けているのを目撃されて不審に思われた方がありましたら、そういう事情だったのでどうぞご安心ください。