発表会が終わり虚脱状態である。
「恋の片道切符」と「フロムミーツーユー」は、それほどひどいことにはなるまいと思っていたが、それほどひどいことにはならなかった。
問題は「ジョニービーグッド」である。
間奏でギターソロが入る。8小節を2回繰り返すパターンである。
2回繰り返して、歌に入る時に、ドラムのYさんが、また間奏のパターンを叩きはじめた。Yさんは、すぐ気づいて修正した。
私は、Yさんが間違ったと思ったが、弾いている内に、間違ったのは自分だと感じた。私が、間奏を一回飛ばしてしまったのである。
なんということであろうか。練習でそんなことは一度もないのに、やはりよほど上がっていたのであろう。
Yさんを疑って失礼であった。
Yさんは、私が間違ったのに、うまく合わせてくれたのである。
終わってから、私はYさんに謝りに行った。
Yさんは、「いや、べつに・・・」と言ってくれた。
発表会終了後、早速ビデオで確認した。
な、な、なんと!私は間違っていなかった!
ちゃんと弾いているではないか!なぜ自分が間違ったと思い込んだのか?
そして、Yさんの、「いや、べつに・・」とは?
すっきりしないではないか。
皆、人のことどころではないのだな。
終わってから、尊師と丑之助君といっしょに飲む。
丑之助君は、ビールとともに生きているような人である。
連日連夜のビールのせいか、バファローズが負けたショックのせいか、丑之助君は半ばモーローとして、飲みながら、うつらうつらと眠っていた。
と、突如彼はイスから床に落ちた。
ライフルで撃たれたバファローのようにドウと倒れた。
こういうことには慣れているのか、彼は何事もなかったようにイスに戻った。
私は、隣のテーブルの女性がさぞ驚いただろうと思って、彼女の顔を見た。
化粧の濃い、30代と思える女性であった。
彼女は、全く知らん顔で、向かいの席の人に
「そしたら、おじさんがね」
としゃべっていた。
話に夢中で気づかないのだなと思った。
彼女の向かいの席の人は、はっきり見ていたはずだ。
どんな反応かと向かいの席を見て、私は腰を抜かさんばかりに驚いた。
誰もいない!
その女性は、誰もいないのに、誰かがいるかのごとく、しゃべり続けていたのである。
飲んで眠ってイスから転がり落ちるなんて、当たり前すぎて面白くもおかしくもないと思った。