夏休みに入って、朝の電車で、子供たちの笑い声が聞こえるようになった。
今朝もキャンプファイヤーが楽しみだというような話をしていた。
小学6年の時のキャンプファイヤーは忘れられない。
夏休み前、6年生の男子の学級委員に、8月に琵琶湖で行われる「子供赤十字トレーニングキャンプ」に参加せよという指示が出たのである。
「男子のみ」と言うのが、時代を感じさせる。
このキャンプは、毎年大阪市内の小学生が参加して行われていて、わが市からは、初参加ということであった。
先生達が、そのことで大変緊張しているのが子供心にも感じられた。
私たち5人がN先生に引率されて参加した。
N先生は、青白い、ひげの濃い、非常にまじめな先生だった。
キャンプには、大阪市内のいろんな学校から男女生徒が参加していた。
私たちは、「田舎者」という気がした。
赤十字の創始者アンリ・デュナンのことを教えられた。
ロープのいろんな結び方を習った。
こんなこと覚えても役に立たんと思った。
二日目の昼、私たちが部屋でしゃべってると、N先生が青い顔を一層青くして入ってきた。
「オイ、今晩のキャンプファイヤーのとき、各学校でかくし芸をすることになってるらしいわ。何にも聞いてなかったんや・・・どうする?」
N先生は困り果てているようであった。
誰かが、「新撰組やろ」と言った。
「やろやろ!」
全員賛成。
「・・・・そうか・・・」
N先生は、不安そうな中にもほっとした表情を見せた。
キャンプファイヤーでの各学校のかくし芸は見事であった。
コーラスあり、寸劇あり、「大阪の子は凄い!」と思った。
私たちの番になった。
二人が、鞍馬天狗と月形半平太である。
「京の都も物騒じゃなー」
「鞍馬天狗!待て!」
「うむ、新撰組か!」
棒を振り回してちゃんばらが始まった。
すぐに私は、これはまずいと思った。
後のことを何にも決めていない。
お粗末であった。
皆切られるのはイヤで走り回っている。
客席はしらけ、私たちは棒を持って走り回り、非常に困った雰囲気であった。
そのとき!
客席から、「助太刀いたす!」という絶叫!
驚いた私が見たのは、顔面蒼白のN先生が、目を吊り上げ、歯をむき出し、棒を大上段に振りかざして私に向かって突進してくる悲壮な姿であった。
新撰組はあっという間に切り捨てられたのであった。