発表会のあと、私はビデオを何度も見る。
思ったよりうまく弾けているのではないかと期待するからである。
しかし、思ったよりうまく弾けていることはない。
祈るような気持ちで何度見直してもだめである。
一昨日、「恋の片道切符」を見ていて大発見をした。
ベースのK君が完全にこけている。
K君は、中級クラスで、何曲か弾いた。
彼自身「『恋の片道切符』は問題ないっす」と言っていた。
ところがビデオを見ると、曲の途中で、何度も立ち往生している。
弾いたり弾かなかったりの繰り返しである。
K君得意の「点滅奏法」なのか?
弾いていない時は目が完全に泳いでいる。
K君の「点滅奏法」を見ていて、私の心は非常にピースフルになった。
温かいものが身体中に広がった。
「地球は一つ」的と言うか、「人類は皆兄弟」的と言うか、「モーターボート競走の収益金は難民救済事業に使われています」的と言うか、世の中捨てたものじゃないな、という安堵感をしみじみと感じた。
そのせいか、きのう夢を見た。
「恋の片道切符」を歌うYさんが、うちの会社で練習している。
私が、そろそろあわせましょうかとYさんを呼びに行く。
こういう、なんでもない夢である。
発表会がすんでから夢を見たのは初めてである。
なんでもない夢を見たのも初めてである。
エレキギターを習いだして、最初の発表会の前は夢を見なかった。
発表会の恐ろしさを知らなかったからである。
初めてステージに立って、自分の手足が震えているのに気づいた時、私は愕然とした。
47歳にもなって緊張のあまり手足が震えるとは思いもしなかった。
そして、私は発表会の前になると、悪夢にうなされるようになった。
二回目のステージの前に見た夢はひどかった。
係りの人にステージに案内されて、立つ位置を教えてもらった。
ふと足元を見ると、なんと、断崖絶壁なのであった。
小心な男が追い詰められた時に見る典型的な悪夢である。
それ以後、いろんな夢を見た。
ステージでギターを弾こうとすると、弦が張ってなかったり、弦が垂れ下がっていたり、弦の代わりに網が張ってあったり、ピックが三味線のバチみたいに大きくておまけに鉄製で物凄く重かったり、私がステージに立つと、客がどんどん帰ってしまったり。
我ながら情けない。
今回の、なんでもない夢によって、私は悪夢から脱出できたのかな。