若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

なつかしい宗教

朝の電車でいっしょになる娘さんがいる。
この人は毎朝、ある宗教団体の新聞を読んでいる。

大学一年のとき、この宗教団体に熱心に誘われたことがある。

私は、「日本アパート」という、名前だけ立派な、木造おんぼろ巨大アパートに住んでいた。
大学一年の五月というと、いわゆる「五月病」の季節である。
初めて家を離れて、大学にもクラブにもまだなじんでいない不安定な時期である。

そんな五月の夜、ドアをノックする音が聞こえた。
「好青年」が一人、ニコニコと立っていた。

「○○大学の学生ですが、学生同士で色々話をしませんか」と言うので、部屋に入れた。
とりとめもない話をした。終わりの方で、彼はある宗教団体に所属していると言った。

それから彼は、ひんぱんにやって来るようになった。
「学生同士の話」ではなく、宗教の勧誘であった。
あるとき二人連れでやって来た。
その人を見て驚いた。
私は美術部だったが、隣が映画研究部で、その人は、映画研究部の四年生の人だった。

人数はだんだん増えて、五、六人でやって来るようになった。
四畳半では窮屈な人数であった。

私にとっては、かなり迷惑であったが、面白くないこともなかった。
私は、何かについてまとまった意見を言うような能力はないが、何かについてまじめそうに意見を言う人の揚げ足を取ったり、茶化したりするのは得意中の得意なのである。

はじめのうち、正攻法で攻めてきたが、私がなかなか落とせないと見ると、「若い女性もたくさんいて楽しい」とか、「有力な組織だから、社会に出てからトクだ」などと、とんでもないことを言い出した。

彼に「あなたはふざけている」と言われたことがある。
私は、「私はクソまじめで、あなたが中途半端にまじめなのです。中途半端にまじめなのは大嫌いだ」と言い返したが、彼には理解できなかったようである。

十人ぐらいで来て、私を取り囲んで、「さあ!ぼくたちといっしょにやりましょう!」と叫んで、手をサッと差し伸べるという、安物の青春ドラマみたいな場面もあった。

ある晩、いつもの若者たちが、中年の男性とやって来た。
エース登場!
私は笑いをかみ殺した。
今夜がヤマなのだな。

ヤマはあっけなく越えた。
その男性は、「あなたみたいな考えではだめだ」と言って帰った。

その後、一度も彼らが訪ねてこなかったのはさびしかった。