若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

満中陰

昨日は伯母の満中陰。
堺の寺に行く。
葬式で見事なテノールの読経を聞かせてくれた和尚さんの寺だ。

お寺の建物は新しく、本堂の内部はキンキラキンであった。
門前の案内板を読むと、このお寺の始まりは、その気になれば、700年ほど昔にさかのぼれるようだ。
私にはその気がないので、説明をていねいに読まなかったから、由緒正しき寺なのかどうかわからない。

昭和20年の空襲で全焼、十年ほど前に全面的に建て直したようだ。

説明の最後に、なんの断りもなく唐突に与謝野晶子の歌が書いてある。

「劫初より作りいとなむ殿堂に我も黄金の釘ひとつ打つ」

彼女の芸術、詩歌に賭ける情熱が伝わってくる歌だが、お寺とどういう関係があるのか理解に苦しむ。

和尚さんが晶子ファンなのか。
テノール読経から、そのセンが濃厚だ。

ホテルで会食。
伯父の食欲に驚く。
若い者とまったく変わらない。

鉢物が出たとき、係りの女性に、「入れ物は大きいけど料理は少ないな」と言った。
懐石料理で器いっぱいと言うのはないだろう。
私は、「伯父さん、軍隊の給食と違いますよ」と言った。

こういうところが可愛げがない。
しかし、92にもなれば、可愛げのないところも含めて可愛いなと思ってしまったが、それは私が伯父と日常接していないからだ。
長男である私のいとこは、伯父の言葉に苦々しげであった。
身近な人は大変だ。

伯父が勤めていた満州鉄道の話を聞く。
「満鉄にはコクセンとシャセンがあって、僕はずっとシャセンやったから・・」
「コクセンって何ですか」
「コクセン言うたら・・・」
伯父は絶句した。
説明できなかった。
後でもう一度聞いたが、説明できなかった。

数年前、入院中の伯父を見舞ったとき驚かされた恐るべき頭脳明晰さが衰えを見せているのはさびしい。
当たり前のことではあるが、やはりさびしい。

横浜の○彦君が来ていた。
40年前、私に「プロレスしよう!」と言って飛びついてきた子だ。
中国でエレベーターを売っているそうだ。

「伯父さん、○彦ちゃんがおじさんのカタキ取りに中国に行ってますよ」
「なんやそれは」
「満鉄を取られた分、取り返しに、中国にエレベーター売りに行ってるんです」
「・・・・」

私の下手な冗談は伯父に通じなかったようだ。