昨日はギターのレッスン。
車でカセットを聞く。
ウチには古いカセットテープがたくさんある。
大学を出てすぐカセットデッキを買って録音したものだ。
紙のケースに入ったテープが多い。
紙ケースはぼろぼろになっている。
娘や息子がかんだからだ。
子供は、カセットテープの紙ケースをかむのが好きだ。
三十数年前、音楽を録音するのは、オープンリールデッキということになっていた。
そこへ「音楽用」と銘打った「高級カセットデッキ」が登場してきた。
当時の私の月給と同じくらいの値段だった。
友達で、オープンリールデッキを買った人が多かった。
私は、どっちにしようか迷って、日本橋の大きな電気屋に行って両方聞かせてもらった。
はじめにオープンリールの音を聞いて、次にカセットデッキの音を聞かせてもらった。
差はわからなかった。
そこへ初老の紳士が入ってきた。
常連さんらしかった。
店員に、「なにを鳴らしとるんや」と言った。
「ソニーのカセットです。いい音しますよ」
「なに?カセット?そんなもん語学の勉強用やないか」
結局私はカセットデッキを買ったので、今でも当時録音したのを聞ける。
音は悪い。
昨日は、なにを録音したかわからないテープを聞いてみた。
好きだった「マウンテン」というバンドの曲が鳴り出した。
何曲めかで私はびっくりした。
「あ!この曲、好きだった!」
好きだったから録音したのだ。
それなのに題名はもちろん、そんな曲があったことさえ忘れていた。
ほかの曲はいろいろ覚えているのに。
伯母の日記を思い出した。
伯母は小学五年生のときに母親を亡くしている。
毎年命日には、「母の命日だ」と書いている。
四十歳くらいのときだったか、命日が過ぎてから思い出して
「母の命日を忘れるなんて。なんだかさびしい」と書いている。
忘れていたのが「マウンテンの曲」では、それほどしみじみした話にはならない。
母がぼけ始めたころ、結婚当時の事を持ち出して父を責めて困らせたことがあった。
脳には、「単に思い出せないこと」のほかに「自分で封印しているもの」も詰まっているようだ。