朝日新聞朝刊の見出し。
地震や台風などの被災地に、全国から届いた救援物資の処理に困っているという話だ。
十年前にロシアのタンカーから原油が流れ出て、回収に苦労した自治体には、いまだに各地から送られた何千ものバケツやヒシャクが保管されているそうだ。
テレビのニュースで、ポリバケツとヒシャクで一生懸命原油をすくい取っている姿を見て、ポリバケツとヒシャクを送ってあげよう!と思うのは自然だが、各自ばらばらに送ってきたら大変だ。
その点お金はよろしい。
じゃまにならない。
お!そうだ。
この原油漂着の時、私も三千円送ったのであった。
「原油漂着被災地支援チャリティコンサート」に出演したのだ。
出演料の三千円は被災地に送られるということだった。
不思議なコンサートであった。
ちょうど今時分に、朝日新聞に記事が出た。
「あなたも憧れの秋篠音楽堂で歌ってみませんか」
主催は、市民グループである。
奈良唯一のクラシック専門ホールで歌えるというので、何を血迷ったか、私は、アコースティックギター一本、フォーク弾き語りとウソをついて申し込んだ。
申し込んでからあわてて作ったのが、「鹿せんべいツイスト」である。
今から思えば無謀であった。
よくあんなことができたと思う。
あのときボクは若かった。
若いってすばらしいな。
1月末が申込締切で、コンサートは3月はじめという、とんでもないスケジュールだった。
2月になって主催者から打ち合わせに来てくださいと言ってきた。
あれ?テープ審査とかないのかな?
曲名を書いて申し込んだけで、曲もできていないのに。
打ち合わせには大勢の人がいた。
出演順とか楽屋の割り振りとかの連絡だけで、何を演奏するとか何を歌うとかは話題にもならない。
何が何やらわからないままに本番をむかえた。
ピアノ演奏とか、クラシックギター合奏とかに続いて、私はステージに立った。
客席で、主催者代表の女性がニコニコと私を見ていた。
私は、不思議に思った。
この人は、私が歌う「鹿せんべいツイスト」をまったく知らない。
私の歌とギターがどんなレベルかも知らない。
気楽な人だ。
私が歌うと、彼女はアハハと笑い出した。
本当に気楽な人だ。
あれは本当に「原油漂着被災地支援チャリティコンサート」だったのだろうか。
現地で開催したら、原油を投げられたな。