若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

忘れ物

バス停で、毎朝いっしょになるのは70代半ばと思える女性である。
二、三人、常連さんはいるが毎朝はこの人だけ。

このお年で毎朝7時にバスに乗ってお出かけというのが不思議であった。
ご主人が入院していて看病だろうか。
それにしても朝早すぎる。
どこへ行くのか知りたい!

こういう年の女性は、顔を合わせているうちに向こうから何か言ってくるものだ。
呼び水として、「おはようございます」と言ってみた。
「おはようございます」とかえってきたが、それだけである。

しばらく我慢していたが、しびれを切らして聞いてみた。
「毎朝どちらへお出かけですか」

「娘の家に留守番です。夫婦共働きでどちらも夜遅いし、子供は中学生だけど塾に行ったりするので、夜は八時九時まで。女中がわりですよ」

わかりました。
それを知りたかっただけです。

ところが、それから毎朝色々聞かされる。

娘の家のブルドッグが可愛いのなんの。
あなたも一度見たら、んも〜〜!たまりませんよ。
娘一家が旅行するときも、犬の面倒を見なきゃならんので泊りがけで行くんです。
駅の階段が長くて、エスカレーターもないのでもう・・・。
娘の主人が、金融機関でしょ・・・。

いや、私は、あなたが毎朝早くからどこへ行くのか知りたかっただけなんです。

そのうち、もう一人、少しだけ若い女性がバス停に現れるようになった。
そして、私の期待通り二人はすぐに意気投合して話をするようになり、私はお相手せずにすむようになった。
もう一人の女性も、娘さんの家の留守番に出かけるのであった。

母が施設に入って、つくづく女性は輪を作るものだと思った。
ボケた人同士、機嫌よくおしゃべりする。

男性入居者は、「浮遊物体」である。
居場所もなく、施設内を漂っている。
顔をあわせても知らんふりだ。

施設で見ていると、男は、機械から取り外された部品のような感じだ。
元大学教授であれ、企業の偉い人であれ、「取り外された優秀な部品」に見える。
「私はこれでも優秀な部品だったんだぞ!」

女性は違う。
「部品?なんですか、それ」
「優秀?どういうこと?」

昨日の朝のバス停は、私と年上の方の女性の二人であった。
紙袋をごそごそしているなと思ったら、つかつかと近づいて私を見上げた。

「ちょっと忘れ物したんで取りに帰って来ます」

は?は、はあ・・(-_-;)