若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

合宿3

Y森さんは仮病ではなく、風邪だったようで発表会は欠場となった。

発表会トップバッターは、わがベンチャーズバンド。
Y森さんの分までがんばろうと、心にかたく誓ったが、それが悪かったようだ。

Iさんからしごかれた、「10番街の殺人」はなんとかなったが、自分として一番心配のなかった「悲しき街角」の途中で、何を弾いてるのかわからなくなってしまった。
持病の、「突発性指痙攣症候群」ではなく、脳の痙攣みたいだった。

軽い脳の痙攣を感じながら、モーローと目をやると、ビデオ撮影中の尊師の、いつもの、「なんでそうなるの?」的笑顔が見えた。

この曲は、発表会と路上ライブで無難にこなしている。
演奏後、Iさんが近づいてきた。

「鹿之助さん、『悲しき街角』、どうしたんですか」
「こっちが聞きたいわ」

たぶん、Y森さんのことが気になってまともに弾けなかったのだろう。
楽しみにしていた合宿の発表会に出ることも出来ず、一人病床で熱にうなされている姿が頭のどこかにこびりついていたのだろう。
演奏に集中できず、「魔の空白」が生じたようだ。
心やさしいのも、こういうときには弱みになる。

それにひきかえ、ドラムのIさん、ベースのK君、ギターのT君は冷たいもんだ。
Y森さんのことなんか気にせず、平気で演奏していた。
こういう人達と、今後もいっしょにやっていくのは、考えものだと思った。

発表会の最大の注目は、ヤマハを代表する猛女じゃなかった熟女U山さんと、ヤマハを代表する珍青年どて君のデュエット、「浪花恋しぐれ」。

どて君は、今どき珍しい、音程リズムともに狂った人で、NHKのど自慢の、80代以上の出演者によくあるタイプだ。
一方、U山さんは、えーっと、なんちゅうか、まあ、そんなどて君を受け止められる体格じゃなかったタイプだ。

どて君は、歌はハナから投げて、セリフに命をかけていた。
芸の鬼桂春団治になりきって、「そら、わいはアホや」といった時、客席から、「そうだ!」「わかっとる!」「今さら言うな!」等という声が乱れ飛んだ。

なりきったまま、U山さんをにらみつけて、「なんや、その辛気臭い顔は!酒や酒や!酒買うてこい!」と叫んだのがあまりに真に迫っていたので、売り言葉に買い言葉、U山さんもぶちぎれて、「誰に言うとるんじゃ!」と怒鳴り返して、つかみ合いになり、場内騒然、大混乱のまま発表会は打ち切りとなった。