名画が、盗まれることがある。
私をはじめ、しろうと画家は、自分の絵が盗まれることなど考えたこともないだろう。
きのうは、人物画教室。
教室に入ると、60代なかばと思える女性が、自分の絵がないといって騒いでいる。
描きかけの絵は、保管棚に置いておけるようになっている。
取りにいったら、なかったというのだ。
あちこち探しても、見当たらないと、大騒ぎである。
結局、忘れ物置き場にあった。
先週、保管棚に置くのを忘れて帰ったのだった。
「あ〜、よかった!」と安心する彼女に、クラスの女性から、声が飛んだ。
「まあ、とられることはないワ。頼んだかて、誰も持っていってくれへんで」
教室に、和やかな笑い声が広がった。
どれくらいのウデから、険悪な空気になるだろうか。
教室の皆さんは、道具などに、いろいろ工夫をこらしている。
木のパレットに、サランラップを敷いている人がある。
描き終わったら、ラップにくるんで捨てる。
これだと、パレットも手も汚れない。
便利だが、まだ使える絵の具も捨てるので、もったいない。
で、ある人は、パレットに絵の具を出して、描き終わったら、絵の具の上に、サランラップをかける。
こうすると、絵の具が固まらない。
生活の知恵である。
70代と思える男性は、不思議な習性がある。
教室に来ると、まずパレットに絵の具を出す。
それはよろしい。
出すのはよろしいが、持っている絵の具をすべてパレットに並べる。
毎回、きれいに、各色1センチずつくらい、明るい色から順番に、二十色ほどきっちり並べる。
15分ほどかかる。
全部使うんですかと、冷やかしてみたいのはヤマヤマであるが、まだそれほど親しくなってないので、がまんしていた。
きのう、先生が、その人の絵を批評していた。
批評がすんでから、先生は、ぽつりと言った。
「絵の具、出しすぎちゃいまっか?」
「は、はあ」
「まあ、七色か八色でよろしやろ」
同感であった。