ふと思い出した。
あの夫婦は今どうしているだろうか。
私たちは、新婚旅行で石垣島に行った。
車を借りて、島を走ろう。
レンタカー屋に行って驚いた。
ここ、レンタカー屋か?
廃車置場ではないのか。
廃車としか思えない車が並んでいた。
これを貸すというのか。
だいたい、これは動くのか。
レンタカー屋のおばさんが、「右側通行だからね」と言った。
石垣島は、当時はまだ車は右側通行だったのだ。
「島の人によく言われるんですよ。『また、新婚さん、左側走っとったぞ』て」
新婚さんが、レンタカーで石垣島を走り回っていたのだ。
出発進行。
何度か左折右折するうち、こんがらかって左側を走っていた。
正面から車が向かってくるのを見て、気でもちがったのかと思った。
気がちがっていたのは私なのであった。
細い道に入り込んで、海岸に出てしまった。
二、三台、やはり迷い込んだ車のうしろに止まった。
バックしようかと思ったとき、前に止まっていた車が突然バックしきて、こっちの車にガシン!とぶつかった。
距離も短いし、たいした衝撃ではない。
前の車も新婚さんのようだったが、運転していたのは女性だった。
降りてきた彼女は、恐縮してしきりに謝った。
まあ、どちらも「一見廃車風レンタカー」だ。
いいんじゃないですか。
今の事故(?)で傷はついただろうが、それまでについた無数の傷と区別はつかない。
問題ないでしょう。
と思ったが、女性は大変気にして謝る。
自分たちが泊まっているホテルの電話番号を書いて、「レンタカー屋で何かいわれたら連絡してください」
きっちりした人だ。
それはいい。
それはよろしいが、「夫」と思える男が問題だと思った。
女性が私に謝りつづけている間、彼は、三メートルほど離れたところで、あさっての方を見て立っていたのだ。
「わしゃ知らん」という感じである。
何かトラブルがあったようでございますが、わたくしには一切関係ございません。
あのねー、きみねー、といいたかった。
あの夫婦は今、きっとうまく行ってますよ。
そんな気がするのだ。
あの奥さんに任せていれば、まちがいないでしょう。