きのうは、M君の焼き物の個展に行った。
M君は、ゾウやキリンなどの動物の焼き物を作って暮らしている。
うらやましくなるくらい、気楽な男だ。
私が、汗水たらして馬車馬のように働いてきた間も、彼は動物の焼き物を作っていた。
うらやましい。
今回、新しいアイデアで、いろんな椅子に動物を乗せたのを作っていた。
これは楽しい。
中でも、椅子の背もたれに黒ヒョウがよじ登っていて、座面にゾウがいるのが良かった。
ただ、座面のゾウがへしゃげているのが気になった。
聞いたら、ゾウは、椅子のアームにもたれさせていたのが、窯で焼いている間にずり落ちてへしゃげてしまったという。
ということは失敗作ではないか。
「こういうのは、叩き割るべきだ」
「そ、そんなもったいない・・」
「焼き物名人は、気に入らない作品は叩き割る」
「ボク、名人じゃないもん」
ぷいとふくれてしまった。
困ったもんだ。
近鉄百貨店の「白日会展」を見に行った。
今度習うことになった、T美術研究所の先生が出品している。
会場は大変な混雑であった。
写実的作風の人気作家が多数所属しているだけのことはあると感心した。
先生の作品は、古典的技法の人物画で、なかなかの力作であった。
会場に入ると、奥の方で作品解説をしているような声が聞こえた。
鑑賞しながら進んでいくと、一枚の絵の前で、白髪の男性が、若者に向かって熱弁をふるっている。
この会のベテランが、新人に向かって説教しているようだ。
「作品のどこかに、私の狙いはこれですというメッセージを残しておかなくてはならない」
長髪の若者は神妙に聞いていた。
「自然の色彩は素晴らしい。たとえば、柿のだいだい色・・・柿のだいだい色はおかしいな・・柿の柿色、これは季節によって変わってくる。その柿の色に一番良く合うように、葉の色も変化する」
そうかな。
若者は、納得しているのかしていないのかわからんが、神妙に聞き入っている。
面白くなさそうな話なので、奥へ進んだ。
最後まで見て戻ってきたら、熱弁はまだ続いていた。
「安井曽太郎は・・」
話が散漫なのではなかろうか、と思ったが、若者は忍耐強く、神妙に聞き入っていた。