若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

アルバート・ボイム『アカデミーとフランス近代絵画』

美術史を読むと、19世紀のフランス画壇は「アカデミズム」という古くっさい画風が支配していて、それに反旗を翻した印象派の青年画家たちが古くっさいおっさんたちを打倒して勝利を得たのである、ということになってます。

私が学生時代に買った、イギリス人が書いた『美術の歴史』もそうなってました。
古くっさいしょうもない絵の代表として、19世紀フランスで最高の人気を誇ったブグローという人の絵が紹介してありました。

ほんとに古くっさいしょうもない絵やなあ、と感心したのでよくおぼえてます。
「アカデミズムの絵」というのは、世界的に長年「時代遅れのクズ」扱いだったんですね。

この本は、40年ほど前に「そんな単純な話ではない」という観点から書かれたものです。
この本によって「アカデミズム」が再評価されるようになったそうです。

私も、最近「アカデミズムの絵」をちょくちょく目にするようになって、「しょうもない!」と切り捨てるのはちょっとどうかと思い始めてたので、この分厚い高い本を読む気になりました。

読み始めたとこですが、買ってよかった。

19世紀のフランスの美術教育は「アトリエシステム」というものだったようです。
有名な画家が先生になって、自分の「アトリエ」を開き生徒たちを教育する。
まあ、「美術予備校」みたいなもんでしょうか。
明治以来、日本人留学生もたくさん「アトリエ」で学んでます。

「アトリエ」で学ぶのは美術を志す純粋な若者だと思ってました。
「アトリエ」は美術修業の場だと思ってました。

物事を表面的にしか見ないのが私の悪いクセです。

「美術を志す若者」というのは、絵筆一本で一攫千金、地位も名誉も財産もがばちょと手に入れてやろうというギンギラギンの若者でもあったんですね。
まあ、「一本」ではムリでしょうが。
100本か200本はいるかな。
何本でもいいけど「芸術の女神に仕える」という雰囲気だけじゃなかった。

この本に、当時のアトリエのえげつないありさまが出てきます。
アトリエの生徒は、新入生から最上級生まで4クラスに分かれてた。
上級生の下級生いじめがひどかったようです。

当時の有名なアトリエで学び、有名な画家になった人が思い出を語ってます。

「椅子、木、イーゼル、箱は飛び交い、そこらじゅうに散乱した」
「大人になった若者にこんなことができるのか、私には理解できなかった」

同じアトリエ出身の別の画家も似たようなことを書いてます。
「画学生の粗暴さや下品さは、その時まで私には想像もできないことであった」

この部分だけでも、この本を買った値打ちがあるというもんです。

あと、この本に「面学生」というのが出てきて、どういう学生のことかと首をひねってたんですが、「画学生」の間違いだと気づいて、これも楽しかったです。