営業用の声とか顔とかいうものがある。
わが社の仕入先商社の営業マンだったAさんは、「営業マン!」という感じの人だった。
四十年近く、ウチの担当だったが、いつも笑顔を振りまき、腰の低さといったら、ダックスフンド顔負け。
営業の鏡である。
あるとき、いつものように笑顔を振りまいたAさんが帰った後、忘れ物をしたのに気づいた私は、急いで駐車場に向かった。
車の中で、Aさんは、見たこともないようなこわい顔で書類をにらんでいた。
営業用の笑顔だったのだと、改めて感心した。
今通っている整骨院の「営業トーク」も立派なものだ。
「お客様に語りかけよう!」という姿勢に、好感を持つお年よりは多いと思うが、私みたいに、「うるさい」と思う人もいるだろう。
しかし、整骨院の営業方針は、徹底している。
例えば、私が、担当してくれたスタッフに、絵を習ってると言ったとすると、次に行ったときは、スタッフ全員が、その情報を共有している。
お客様の、あらゆる情報を聞き出そうとするので、石膏デッサンを習い始めたことも告白済みだ。
きのう、院長が、「若草さん、石膏・・・石膏・・・石膏デッサン、始めはったんですね。えーっと、ミロのビーナスとか、言うてはりましたね」
自分の全く関心のない分野のことでも話題にしようとする姿勢に、好感を持つお年寄り(以下同文)。
「あの、石膏デッサンって、あれですか、カタマリを使うんですか」
「?」
「それとも、型を作ってから、流し込むんですか」
いわゆる「営業トーク」の典型ですね。
きのう、車のキーのことで、トヨタのディーラーに電話した。
電話帳を見ながらかけたら、すぐ出た。
「ハイ、トヨタでございます」
うん?
なんか、おかしー。
「トヨタ」にかけて、「トヨタでございます」だから、おかしくはない。
おかしくはないが、おかしいのだ。
「・・・学園前の若草ですが」
「いつもお世話になっております」
やっぱり、おかしー。
気持ち悪い!
電話帳を見て、はっと気づいた。
「トヨタ」の上の欄が、家内の友達の「豊田さん」なのだ。
「豊田さん」にかけてしまった!
豊田さんの奥さんが、「豊田でございます」というのはおかしくない。
あたりまえだ。
豊田さんの奥さんを責めるつもりはない。
営業と非営業について、考えさせられた。