今年の自治会の班長にろうあの方がいます。
私と同じくらいの年配の男性Aさんです。
ろうあ者であるAさんが班長になるという話を聞いたとき、バリアフリーでない私は、「え!?」と思ってしまった。
なにが「え!?」なのかははっきりしないけど、なんとなく「え!?」と思ったんです。
そのAさんが、初めて我が家に来たとき、一目見て、「え!?」と思わなくてもよかったんだと思いました。
なんかわからんけど、そう思ったんです。
Aさんは、班長会の時などに、市から手話通訳が派遣される制度について説明に来てくれたんです。
当然、筆談です。
A4サイズくらいの紙をたくさん持って来てた。
その紙に、ば〜っと書く。
それを読んでから、私がまた、ば〜っと書く。
Aさんを一目見てバリアフリーになってた私は、ふだんどおり、口から出まかせにしゃべるのと同じ調子で、ボールペンから出まかせに書きまくった。
「紙がたくさんいりますね」と書いたら、笑ってうなづいてました。
意気投合という感じでよかったんですが、勢いに乗ったAさんが、「手話を習ってください」と書いたので焦ってしまった。
焦ってる私に、手話教室の場所やスケジュールまで書くので、逃げまくりの書きまくりで、第1ラウンドはAさんの優勢であった。
その後、何度かウチに来ました。
Aさん持参のA4サイズの紙だと何枚もいるので、私は愛用のクロッキー帳を使うことにしました。
これだとサイズが大きいので、そう途切れることなく筆談できるんです。
Aさんが書いた下に続けて私が書く。
二、三か月前、Aさんがウチに来ました。
私が作った書類がまちがってると言いに来たんです。
まちがってませんでした。
Aさんは、早とちりの人だと思いました。
きのう、Aさんが来ました。
渡した書類がまちがってるというんです。
まちがってませんでした。
まちがってないと言っても納得せず、何度も見返してました。
そして、ハッと気づいたようで、ボールペンで書きました。
「目がかすんできたもので、まちがいました。すみません」
で、書きました。
「目がかすんできたんじゃなくて、アタマがかすんできたんでしょう」
Aさんは、読みながらニコニコ何度もうなづいて、私に指で丸を作って見せて帰って行きました。