若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

『アパートの鍵貸します』

1960年のアメリカ映画をテレビで見ました。

高校の時見た記憶があるんです。

学生時代は「3本立て100円」の映画しか見なかったから、この映画を見に行ったわけじゃなくて3本のうちの1本だったんだと思います。

大手保険会社のしがないサラリーマン、ジャック・レモンはアパートでしがない独身生活を送ってる。

上司たちの情事の場としてアパートを貸して、あわよくば出世をと願ってる情けない男です。

その彼が心を寄せるのが会社のビルのエレベーターガール、シャーリー・マクレーンです。

ところが!なんと彼女は、彼が提供してるアパートで彼の上司と・・・というようなお話で高校生向きじゃない。

高校生向きの話じゃないからぜんぜんおぼえてない。

ただ、彼女の不倫の相手がフレッド・マクマレーだったのは意外でした。

フレッド・マクマレーはテレビの『パパ大好き』で良き夫良きパパを演じてましたから、まさか妻子ある身でありながらエレベーターガールを口説くとは思いませんでした。

映画にフレッド・マクマレーが登場した時、良き夫良きパパとしてジャック・レモンをしかりつける役だと思ったんです。

テレビの影響って大きいですね。

このころアメリカには「エレベーターガール」がいたんですね。

日本のデパートでもいつごろからかいなくなりました。

私は大学時代、横浜港の近くのホテルでエレベーターボーイをしたことがあります。

大学の美術部の友人のお兄さんがホテルの「ボーイ課長」みたいな人だったんです。

その人の下に「ボーイ長」がいました。

この人はいかにも「ボーイ長」という感じのかっこいい人でした。

その下に若手が二人いて、一人はこれまたかっこいいボーイさんで、将来水商売をしたいので接客の勉強のためボーイをしてると言ってました。

もう一人は、いかにも「あんちゃん」という感じの人でした。

半年くらいのバイトでしたが皆さんの顔をはっきりおぼえてます。

夕方4時から朝8時までの勤務だったと思います。

ビルの4階から上がホテルなので、4階で待機してて呼ばれたら上へ行ったり下へ行ったりする。

外人客が多かったです。

 

ある朝4階から外人客を大勢乗せて1階へ行くはずが、まちがって屋上へ行くボタンを押してしまって、ドアが開いたらさんさんと朝日が降り注ぐ屋上だったのでびっくりしたことがあります。

どよめく客のなかから「オーホワットアビューティフルモーニング!」という声が聞こえて笑いに包まれながら1階に下りました。

 

1階から呼ばれて下りたら、とんでもなくけばけばしい中年女性が乗り込んできたことがありました。

4階について彼女がホテルに足を踏み入れた瞬間、「ボーイ課長」と「ボーイ長」がすっ飛んできて、両手を広げて通せんぼして彼女を囲むようにエレベーターに押し戻した。

「ボーイ課長」が怖い顔で「下!」と言ったので急いで1階に下りておろしました。

4階に戻ると「ボーイ課長」に「あんなの乗せたらだめだよ!」と怒られたんですが、知らんがな。

 

夜遅く地階から呼ばれることも多かった。

地階はバーとかスナックが入ってたんで、飲んだ泊り客から呼び出しがかかる。

ある夜地階から呼ばれて下りてドアを開けたら目の前で日本人ホステスと外人男性がひしと抱き合ってチューをしてる真っ最中であった。

ブッチュー!という感じであった。

ブッチュー!を至近距離で目撃したのは人生最初で最後であった。

いつまでたっても終わらないので4階に戻ろうかと思ったら息が苦しくなったのかやっと終わった。

 

7月に港の花火大会があってホテルは非常に多くの客であふれかえりました。

エレベーターで待機してたら「ボーイ課長」が怖い顔で「バーに行って手伝って!」と言うんです。

殺気立ってました。

バーに行くとやはり殺気立ったバーテンさんが、「これ、何番テーブルに持って行って!」とマティーニを乗せた銀のお盆を渡しました。

4階がテラスみたいになっててテーブルがたくさんあったんです。

こぼしてはいけないと思ってお盆をおなかにあてて両手でしっかり持って何番テーブルに行こうとしたら、バーテンが「なにやってんだ!こうだよ!こう!」と怒るんです。

右手の指をヘンなふうに立ててお盆を肩のあたりで持てと言うんです。

そんなこと習ってません。

仕方なく右手の指をヘンなふうに立ててお盆を肩のあたりに構えて何番テーブルに運びました。

テーブルには外人男性が二人いました。

恐る恐るお盆を下げたら、マティーニはほとんどこぼれてました。

注文した客じゃない男はほとんどからのグラスを指さしてげらげら笑いました。

注文した男はなんだかわめいてました。

私は日本人特有の謎の微笑を浮かべてその場を去った。

後どうなったか、知らん。

 

深夜から早朝のエレベーター当番は、いかにも深夜の当番という感じの謎のおじさんであった。

若いボーイ相手に「かあちゃんは大事にしなくちゃいかんよ。うちのかあちゃん、美人じゃないけど、やっぱりかあちゃんだよ」と口癖のように言ってました。

 

夜中に「ボーイ長」が厨房に連れて行ってくれて「ないしょだよ」とホテルの高級アイスクリームを食べさせてくれたのが一番の思い出です。