『具体例による歴史研究法』という本を買いました。
昭和35年出版で、所三男という歴史学者の還暦を記念してお弟子さんたちがまとめた論文集です。
所さんゆかりの学者たちの随筆集みたいな感じです。
なぜこんな本を買ったかというと、『夜明け前』を読んで木曽の山林について知りたくなったからです。
江戸時代、木曽の山々は尾張藩の領地だった。
一部に厳しい制限はあったけれど、住民たちは生きていくための山林の利用は許されていた。
ところが明治新政府は木曽の山々は国有林であると決めて立ち入り禁止になった。
木も草も利用できない。
木曽の住民は「アメリカインディアン」やアイヌの人々のような立場に立たされた。
はるか昔から自然の中で生きてきたのに突然、「国ができたんです。誰のものでもない土地はないんです。ここ、あなたの土地じゃないんで勝手に使わないでください」と言われた。
『夜明け前』の主人公(島崎藤村の父)は住民のために戦って敗れる。
そういう背景を知りたくてこの本を買いました。
所三男さんは木曽の出身で木曽の山林について研究した人です。
どこで研究したかというと、「徳川林政史研究室」で研究した。
「徳川林政史研究室」というのは尾張徳川家第19代徳川義親さんが設立したんです。
徳川義親さんが所三男さんについて書いてます。
「昭和2年のある日、麻布富士見町の邸内にあった林政史研究室に木曽福島の住人、所三男という青年が訪ねてきて、木曽の研究がしたいから三か月ほど東京にいて資料が見たいということであった。もちろん異存なく承諾した。しかるに三か月たっても木曽に帰るどころか、やがて三年となり、五年となって居座ってしまい、十年、二十年、三十年も過ぎて今日となった。・・・私が所長、所君が主任というより、ぬしとなって、私のほうが教えを受けることが多くなった」
この居座りはすごい。
山林より人間の方が面白いですね。