若林君と『幻の女』について書いて畑中君を思い出しました。
高校美術部の一年後輩なんですが二十年ほど前に亡くなってます。
彼が鳥取大学医学部に入学して間もないころ手紙が来た。
米子での下宿生活のわびしさを訴える手紙でした。
「わびしい下宿生活」を送りそうな男であった。
「わびしい下宿生活」が似合いそうな男であった。
わびしさをまぎらすためにおもしろい本でも読もうと思った。
で、「若草さんが推理小説のオーソリチーであることを思い出しました」と書いてあった。
学校で推理小説の話なんかした記憶はないけどしてたんでしょうね。
なにか推薦してほしいと言うので『幻の女』をすすめたらしばらくして手紙が来た。
「言わせてください!
おもしろい!」
ほかにも推薦してほしいというので何冊かすすめたと思います。
畑中君は大学を出て大阪の大きな病院に勤務した。
学閥がどうのこうのでおもしろくないと言ってました。
そのころ美術部の仲間で時々飲んでました。
何人かで飲んでるとき畑中君と浦田君が向かい合って議論してた。
浦田君は私と同学年で去年亡くなりました。
畑中君が浦田君に向かって「先生、先生」と言うのに気づいた。
「あのね先生」
「いや先生それは」
職業病と言うやつだなと思って聞いてたんですがしばらくして浦田君が怒りだした。
「畑中!オレに先生と言うな!気持ち悪い!」
畑中君はバツの悪そうな笑いを浮かべて「すみません」と頭をかいた。
そのとき私が畑中君に声をかけた。
「畑中!浦田に先生と言うな!私に言うて」
隣にいた同期の女性Kさんが私を見て「先生と呼ばれたいの?」とうれしそうに笑った。
みんな気楽な時代でした。