「ナチス略奪美術品」については色々読んだことがあります。
ヒトラーがヨーロッパ中の美術品を略奪してドイツの岩塩坑に保管していた。
ルシアス・クレイはアメリカ占領地区の最高責任者としてその処理に当たることになった。
ものすごい数の絵画、彫刻、工芸品などがあってその仕分けだけでも大変だった。
手当たり次第に略奪したので巨匠の傑作と日曜画家のお粗末な絵がまぜこぜにおいてあったんです。
その鑑定も大変だったし元の持ち主への返還も大変だった。
最近も東京の展覧会で見つかった略奪絵画がポーランドに返還された記事を読みました。
もう一つクレイが処理に苦労した美術品があった。
ドイツの帝室美術館などの所蔵品も同じ岩塩坑で保管してたんです。
ドイツの美術館の所蔵作品をどうするか。
ドイツの美術館に返したらいい、と思うのは素人の浅はかさ。
ドイツの美術館は空襲で破壊されてたし、当時は「ドイツに返還」というような雰囲気じゃなかった。
「ドイツ憎し!」
「報復すべし!」
「懲罰すべし!」
当然でしょうね。
「ドイツ美術館の所蔵品は賠償の一部としていただきましょう」
ソ連は占領地区の美術品を早々と本国に運んでいた。
ちょっと待った!と声を上げたのがルシアス・クレイです。
ルシアス・クレイは原理原則の人だった。
アメリカの参戦目的は何でしたか?
自由と民主主義を守ることでしたね。
ドイツ占領の目的はドイツに自由と民主主義を根付かせることである。
ドイツの美術館の所蔵品はドイツ国民の貴重な文化的財産である。
かけがえのない美術品を賠償に使うべきではない。
まったくの孤軍奮闘であった。
このままドイツ国内に置いておけば連合国に略奪される。
一時的にワシントンのナショナルギャラリーで保管しよう。
ドイツ国民に向けて返還を前提として150点の絵画をナショナルギャラリーで保管修復すると発表した。
ワシントンに送って24時間警備の元で保管修復したんですがとんでもないことが起きた。
なんと、ナショナルギャラリーがドイツ美術館所蔵絵画を狙ってたんです。
ナショナルギャラリーは有力上院議員フルブライトに働きかけて「ドイツ美術品国外持ち出し禁止法案」を提出させた。
クレイは烈火のごとく怒ってます。
「合衆国の上院議員ともあろうものが国の名誉を汚すような法案を提出するとは」
ここからも孤軍奮闘、法案を阻止して「ドイツ美術品巡回展」を企画した。
全米13都市で開催されたこの展覧会は空前の大成功をおさめ入場料収入は莫大な金額になった。
この金はドイツの子供たちの食糧援助に使われたそうです。
伝記を読むといつものことですが、えらい人だなあと思いました。