「ベンチャーズの曲を弾いてみたい」と思ってヤマハで習い始めたんですが、バンドをやりたい若者が多かった。
バンドを作るのは難しいことのようでした。
メンバーは集まったけど練習もしないうちに解散という話も聞いた。
音楽一途の人もいるし練習の後の飲み会が楽しみという人もある。
苦労してライブまでこぎつけても客集めに困る。
子どもの発表会なら家族知人総動員ですが、いい若いもんのライブとなると親兄弟は当てにできない。
私が見たライブで一番さびしかったのはウクレレを習ってたKさんのライブ。
日本生命を定年退職したKさんが同年輩の女性と二人でハワイアンのライブをしたんです。
長年営業所長を務めたというKさんのことだから「日生のおばちゃん」が押し掛けるかと思ったらなんとKさん側の客は私だけ、コンビの女性の客が3人。
ハワイアンコンビと客4人が差し向い。
何曲か演奏したKさんが「ここでちょっと休憩です」と言ったとたん、待ってましたとばかり3人が「じゃ、私たちはこれで」と帰ってしまって一人取り残されたときは焦りました。
まあ素人バンドは1曲で十分ですよ。
初めて若者バンドのライブに行ったとき「アンコール!」の声がかかったのでびっくりした。
まだ聞きたいんか?
その後どのライブでも「アンコール」の声がかかるので、知り合いとして義理で声をかけてるんだなと思いました。
あるとき、ライブが始まる前にバンドのリーダーが客席に来て友達に「アンコールしてね」と頼んでたので「アンコール」というのはお願いするんだと知りました。
私たちのバンド、ビンテージグッズの最初のライブではアンコールのことまで気が回らなかった。
2回目のライブではアンコール演奏をしようということになった。
2回目は10曲練習して9曲目が最後の曲ということにして10曲目をアンコールで締めくくろう。
お願いするのはかっこ悪い。
司会役の私は無い知恵を絞った。
「それでは最後の曲『オオキャロル』!9曲目です。9曲目で最後の曲なんですが私たちはこのライブのために10曲練習してます。いいですか。次の9曲目が最後の曲で私たちは10曲練習してるんですよ」
客席から失笑と共に「アンコールしてくれということやな」という声が上がった。
「誰がそんなこと言いました?アンコールしてくれなんて誰も言ってませんよ!アンコールはこっちがお願いするもんじゃないですよ。皆さんの気持ち次第です。皆さんがアンコールするならする!しないならする!ふたつにひとつです。アンコールの声がかかればやりますしかからなくてもやりますよ。せっかく練習したんやからね。どっちみちやるんやからどうせやったら気分ようやらせたってよ」
『オオキャロル』が終わると自然発生的に「アンコール!」の大合唱が起きたのはめでたかった。