若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

笑いなさい!

 子供をたたくと言えば。

 十数年前の夏のこと。
私は息子を連れて遊園地のプールに行った。
そのプールの一角に、滝の流れ落ちる、子供の遊び場みたいな所がある。そこには、石造りのカバや白鳥などが置いてあって、それに子供を座らせて写真をとる親が多かった。
 息子の手を引いてそこへ行くと、何組かの親子がいて、撮影の真っ最中であった。そのとき、異様な声が響いた。

「笑いなさい!笑いなさい!」
声の方を見ると、カメラを構えて中腰になった若いお母さんが、目を吊り上げて叫んでいるのである。視線の先を見ると、三歳くらいの男の子が、白鳥に座ってワーワー泣いている。
 その子に向かってお母さんは金切り声を上げて叫んでいるのであった。
「笑いなさい!笑いなさい!ピース!ピース!」
鬼気迫る姿であった。

 あのね〜、おかあさん、息子さんの今の状況では、笑ってピースは無理だと思いますよと、私はアドバイスしてあげたかった。
 しかし、お母さんの今の状況では、私のアドバイスを受け入れるのは、これまた無理であろうと思った。

 絶叫していたお母さんは、すっくと背を伸ばすと、バシャバシャッ!と水を蹴立てて、泣いている男の子に向かって突進した。
 男の子の前に仁王立ちになると、
「笑いなさい!笑いなさいって言うてるでしょ!」
ものすごい剣幕で怒鳴りつけると、子供のほっぺたを、思いっきり張り飛ばした。
火のついたように泣く子供を後に、元の場所に戻るとまたも
「笑いなさい!ピース!ピースしなさい!」

 この親子の行く手に幸多かれと祈りつつ、息子の手を引いてその場を離れたのであった。