若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

チュンリー

息子が小学2、3年の頃、よくテレビゲームをした。

ストリートファイター2」が人気でした。略して「ストツー」
買ってしばらくすると息子に勝てなくなった。息子は面白くないと言って私と遊んでくれなくなった。

ある日、息子の同級生で、仲良しのさゆりちゃん(仮名)が遊びに来た。
私は、さゆりちゃんになら勝てるだろうと思った。

「さゆりちゃん、ストツーしよか?」
さゆりちゃんは、鼻で笑った。
「いーよ〜。私、『チュンリー』ね」
チュンリー」というのは、中国人の拳法家でかわいい女の子である。
「私はねー、『チュンリー使い』としては、相当なもんなんだよ」

なーにをこしゃくな!
息子がさりげなく言った。
「さゆりちゃん強いで」

強かった。さゆりちゃんは強かった。息子の比ではなかった。
私は負け続けた。
とうとうさゆりちゃんが言った。
「おじちゃん、もういいでしょ」

さゆりちゃんは、四年生になるとまったくうちに来なくなった。
ただ、私は日曜日に、息子とFくんとさゆりちゃんを、教会の日曜学校へ車で送って行っていた。熱心な信者の人がさそって連れて行ってくれていたのだが、引っ越されたので、私が連れて行くことになったのである。

忘れもしない、五年生になった春のある日。
いつもの様に、後ろの座席に息子とF君を乗せてさゆりちゃんを迎えに行った。
さゆりちゃんは元気よく助手席に乗り込んできた。

「おはよう!おじちゃん、私、生理になっちゃった」

衝撃であった!
なんと応えればいいのか?

「おめでとう」?「たいへんやね」?
それより、息子たちになんと説明するのか?自分には説明能力はないと思った。
話を変えよう。そうだ!先週、さゆりちゃんは、「ドラゴンクエスト」というゲームソフトを買ってもらうと言っていた。

聞こえなかったふりをして
「さゆりちゃん、『ドラクエ』買ってもらった?」
「うん!」
後ろめたさを感じながら、私は強引に話を変えてしまいました。

その年の12月。教会へ行く車の中で、さゆりちゃんが言った。
「教会で『放蕩息子』ていう劇するの。おじちゃん知ってる?」
「知ってるよ。不良息子が包丁振り回して大暴れするんやろ。『包丁息子』て恐い劇や」
「おじちゃん、毒回ったんちがう?」

去年、バスで久しぶりにさゆりちゃんに会った。
高校の文芸部で小説を書いているとのことでした。